龍NOVEL

□神宮京平の聖誕祭
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街はクリスマスに彩られ、浮かれた庶民どもがウィンドウショッピングに精を出す。
痛々しくて目も当てられない。
指を咥えて見つめることしか出来ない奴らの経済状況。
これ見よがしにプラチナカードでも出してやろうか。

「先生、お給料上げてくださいよ」
打算で結婚した妻へのプレゼントの支払をしようとした時、唐突に秘書が言う。

「僕も彼女にプレゼント買ってあげたいんですよ」
この前給料出たばかりだろう。

「家賃と生活費でいっぱいいっぱいです」
お前のような庶民は皆、それをやりくりして小さな幸せを買っているのだ。

「あ〜あ〜。ほんとこんな世の中に誰がしたんでしょうね」
唇を尖らせて恨めしそうな目でこっちを見るな!
俺じゃない! とりあえずまだ総理になっていない。
俺のせいじゃない!

こんな能無し秘書の不満にいちいち耳を傾けている暇はない。
俺の耳は富と地位の獲得できる内容しか受け付けない、多忙極まりない男なのだ。


頂点に君臨しようとする者は威厳に満ちていなくてはならない。
だが面倒臭い事に優しさが欠けては庶民はついてこない。
時にそれが自分の中で偽善だと分かってはいても、迎合する必要がある。

親のいない子供達にこの俺様がサンタクロースになろうではないか。
もちろん聡明な自分は慰問先の選択にも抜かりはない。

我が娘、遥のいる『ヒマワリ』だ。
ここで顔見知りになっておけば、連れ出すのも容易になるはず。

施設の外に出れば、あとはいくらでも…
口に出すのもおぞましい…
愛した由美との子供とはいえ、俺は遥をいずれ亡き者にしようとしている…

だが仕方あるまい。
目的の為には犠牲を払うのも世の常なのだから。

さて慰問先の施設の子供達へプレゼントを買いにいかねば。


施設の前に来たは良いが取材クルーの姿が見当たらないようだが…
おい? 何故そこでスケジュール帳を確認しているのだ?

「あ! ……すいません…僕、24日ってテレビ局に伝えちゃいました」
な、な、なんだと〜っ!? お前って奴は…お前って奴は…

いい加減にしろ〜〜〜っ!!!
一日過ぎてるやんけ〜!

はっ! 俺様とした事が怒りの余り、何処の地方とも分からない方言を叫んでしまった。
っていうか、人の話も聞かずに電話してるとはいい度胸じゃないか。

「はい、はい、申し訳ございません…本業の方でどうにもならない事が起こりまして…いえ〜ちょっと詳しい事は国家機密な物で…ええ、それはもう重々承知しております。この穴埋めは『神宮京平の食いしん坊万歳』第2弾でもなんでもやらせていただきます。はい。そういう事で」

テレビ局に謝罪の電話入れるまではいいが『神宮京平の食いしん坊万歳』第2弾とか勝手に決めてるんじゃない!
俺はもうこりごりだ!
クソ生意気なガキに『アワビ―ム』とか叫ばれる人間の身にもなってみろ。

これでは膨大なプレゼントの山の意味がないじゃないか!
善行が報道されなくては単なる脚長叔父さんになってしまう。

「まぁまぁ、そんなに怒ったら血圧あがりますよ」
言われなくてもお前が秘書になってから俺の血圧は毎年上がり続けている…
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