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□『遠回り』
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(あぁっ頭痛えっ……っていうか、ここ何処だよ……)
 二日酔いで不快に鳴り響く頭を押さえながら、堂島大吾はゆっくりと部屋中に視線を泳がせてみる。見慣れた室内に彼は安堵の表情を浮かべた。
 てっきりまた行きずりの女の部屋で眠り込んだのかと思っていた。自分ではその場限りのつもりでも、大抵の女は目が覚めると彼女面をする。それが彼には苦痛以外の何物でもなかった。
「ちょっと! いつまで寝てんのよ!」
 鈍く痛み続ける後頭部を小気味よいほど思い切り叩かれて、大吾は倍増する痛みに顔を歪めた。
「痛ぇっ……。何すんだよ! こっちは二日酔いだぜっ!」
「あのさぁー、いきなり朝方四時に叩き起こされたアタシの立場はどうなのよ? えぇっ!?」
 サツキは頬を膨らませ憤慨した表情で言い返した。頬を膨らませている時はまだ怒りの度合いは大したことはない。長い付き合いの中で大吾は分かっていた。
 自分を勝手に『兄貴』と慕い、金魚の糞のように神室町を何処までも付いてくる若い衆と飲んでいた事までは覚えている。しかし彼女の部屋に辿り着いていた事は、全く大吾の頭の隅には記憶が無かった。
「俺、朝の四時に来たのか?」
「そうだよ。全く、もぉー! 人が気持ち良く寝てたらピンポンピンポン鳴らしてうるさいったらありゃしないし。誰か分かんないから怖くてしばらく無視したけどさ、ドア叩き出して挙げ句の果てには蹴り出したんだから! 近所迷惑になるから仕方なくて覗いたら、堂島さんちの馬鹿息子がふらふらしながら立ってんだもん」
「悪ぃ……」
「せめて来る前に電話入れてよ。いきなりレディーの部屋に来るのは失礼だよ」
 相変わらず憤慨したままで状況を説明し続けるサツキの話を遮ると、馬鹿息子呼ばわりされたのがよほど気に障ったのか、大吾は子供じみた仕草で言い返した。
「はいぃー? ちょっと待てよ! レディーだ? 何処に居るんでしょうかねぇ〜? レディーとやらは」
「あ・ん・た・の・目・の・前・だよっ!」
「小さすぎて見えなかったぜ、けっ!」
 眉間に触れるか触れないかまで近づいた小さい指先を、大吾は鼻で笑いながら払い除けた。
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