龍NOVEL

□神宮京平の聖誕祭
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代議士そして隠密部隊MIAの最高責任者であるはずの俺様が今はトナカイ。
こんな姿を義父に見られたら後継者から外される事間違いない…

痛っ! な、何をするんだ!
こら!馬乗りになるんじゃないっ!
どいつだ? どさくさに紛れて蹴るガキは!

「こらっ! トナカイさんにそんなことしちゃダメだよ」
この声は…遥じゃないか!

着ぐるみの僅かな隙間から外を見れば、我が娘、遥が幼いガキ、いや児童を叱っている。
さすが我が娘、叱責する姿も威厳に満ちている。

「だって〜このトナカイ、なんかつまんなさそうにしてるんだもん」
どき…何故そこまで知っている?
子供といえども侮れない。

見れば秘書はトナカイのくせに二本足で立ち上がり子供達と戯れているではないか。
ありえない…
二本足で立ち上がっているトナカイなど、眼帯男の言葉を借りるなら『嘘臭い』そのものではないか!

がっ! 園内の庭の木に向かってナイフ投げを披露するトナカイ発見!

「ほな次あの印んとこ狙うで〜」
トナカイのくせに関西弁って…お前は嘘臭いのが嫌だったんじゃないのか!?
ナイフ投げするトナカイってどんなトナカイなんだ〜〜〜!!!!

「ねえねえ、なんでサンタクロースなのに大阪弁なの?」
「日本のサンタはな、みんな吉本興業か松竹芸能と契約しとるねん。あ!帽子取ったらアカン!」
「うわぁ〜サンタさんってハゲなんだね」
「毎年みんなのプレゼント用意するのに大事な髪の毛、カツラ屋に売っとるねん」
「……そうだったんだ…ハゲなんて言ってごめんなさい」
「ええ、分かったらええねん」

将来ある子供に何を吹き込んでいるんだ!
いくら子供だからってその話を信じているのもどうなんだ。
日本の行く末が不安で堪らない…

「ほなワシら次の子供のところ行かなアカンからそろそろ帰るで。来年も来るさかい、ええ子にしとるんやで」
ようやく神宮京平に戻れる。
タコ坊主よく言った。誉めてやろう。

開き直って二本足で園を去ろうとしたその時。
「今日はどうもありがとうございました」
遥が駆け寄ってサンタのタコ坊主に小さな包みを渡している。

「トナカイさん達にも、はい!」
俺達トナカイにも一人一人に包みを差し出す。

「いつもいただいてばかりだから、みんなでお小遣い出し合って買いました。…お小遣い少ないからこんな小さい物しか買えなかったけど…」

どこからともなく聞こえる啜り泣きを堪える声。

「親父えかったなぁ〜」
「せやな…散々風間には文句言うたけど、なんやサンタになってえかった…ほんまに」
「ワシら今日一日だけは綺麗な人間なれたんとちゃう?」
「ああ、ほんま自分の言うとおりや。たまにはこないなのも悪うないな」

タコ坊主が空を見上げ必死に涙を零さないようにしているではないか。
鬼の目にも涙とはまさしくこの事か。
案外ヤクザという生き物は単純に出来ている。

俺様など正直こういった物は処分に困るだけなのだが。

「包みは小さくても大きな気持ちがこもっているからすごく嬉しいよ」
珍しく秘書が真っ当な言葉を吐いた。

お前、散々給料上げてくれとかほざいていたじゃないか!
気持ちこもってるなら彼女に小さい包みの安いプレゼントでもいいだろう。

「先生…子供と大人を一緒にしては駄目ですよ。僕の彼女は一流品しか受け付けないんですよ」
お前みたいな三流仕事しか出来ない秘書と付き合ってるぐらいだ、偽物と本物の見分けも付かないはずだ。
コピーブランドでもプレゼントすればいいのではないか。

「開けてもええか?」
「うん」

タコ坊主と眼帯男は嬉しそうに包みを開けている。
思うにこの二人、子供はいないようだ。
って秘書! お前も今開けるのか!?

「携帯のストラップだ! 早速付けさせてもらうね。どうもありがとう!」
「なんやカードも入っとるな」
「あ! それはあとでこっそり読んでください。恥ずかしいから」
「もしかしてラブレターちゃうんか?」
「いやぁ〜それは堪忍やで。こないな子供に手出したら風間の叔父貴に撃たれてまうわぁ〜10年後ならOKやで。お嬢ちゃん名前なんて言うねん?」
「澤村遥です。あ…でもラブレターじゃないから安心してね」
「なに名前まで訊いて振られとるねん! ほんまダッサイなぁ自分」
「親父が『ラブレターちゃうんか』言うからや」

たかだか子供からのプレゼントでここまで盛り上がれるとはつくづく幸せな奴らだ。
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