龍NOVEL

□神宮京平の聖誕祭
2ページ/5ページ

「ほんま風間の奴覚えとれ…なんでワシがサンタなんぞにコスプレせんとあかんのや」
「しゃあないやん。体型的には親父が一番似合いそうなんやから」
「真島、お前やれや」
「親父、あかん…それだけはあかん。こない眼帯しとるサンタなんぞ来たらガキどもちびってしまうわ」

何やら後方から品のない関西弁が聞こえるではないか。
あれは…どう見ても庶民からほど遠い人種…俗に言う『やくざ』その物。
マズイ…目を合わせてはいけない。

「サンタは親父でええとして、トナカイどないするん?」
「自分がやったらええがな」
「いややぁ〜ワシ、あない茶色の着ぐるみ着とうない!」
「おどれ! ワシなんぞ真っ赤なべべ着て、髭まで付けるんやで! トナカイぐらいやったらんかい!」

一歩一歩こちらに近づく怪しい風貌の男二人の目に付かぬよう、俺は背を向けた。

「先生、あれってヤクザと違います?」
空気読め!バカ秘書がっ! 
がっ!指を指すんじゃない、こらっ!
……完全に気付かれた…

「おや? 自分達も『ヒマワリ』に用あるんか?」
伊達正宗には似ても似つかぬ眼帯姿の男に声を掛けられ、俺は動揺を見せないように頷く。

政界とヤクザは昔から癒着する物。
これぐらいの事で狼狽えていては総理の椅子も遠退いてしまう。
まあ鬱陶しくなったらMIAを発動させて闇に葬ればよい。

「なんやぁ? こちらはんもごっつうプレゼント持ってきとるやんか」
巨体タコ坊主男が俺様の車の中をスモークガラス越しに凝視していた。

持って行って構わない。
だから…だから早く目の前から消えてくれ。

「先生がここの子供達に用意したんですよ」
余計な事を説明するな!
しかもこの状況で何故そんなに自然な笑顔なんだ!

「へえぇ〜ほな自分達もサンタちゅうことか」
ええ、まぁ…サンタというか脚長叔父さんというか…

「…サンタは一人でええよな? 真島?」
「そりゃそうですわ。サンタが二人もおったら嘘臭くなってまうわぁ」
だから…脚長叔父さんと言い直したつもりなのだが…

「んっ!? ええこと思い付いた!」
「なんやねん? 言うてみい」
「トナカイは何匹おってもええやん。ちゅうか一匹やとそれも嘘臭いわぁ」

神妙な顔でタコ坊主が頷くたびに、ツルツルの頭皮に西日が反射して眩しくて堪らない。
しかしさっきからこの二人はいったい何の話をしているのだ。
冷静を努めて思い切って尋ねることにした。

「あ? ワシらな、ちいと、この施設の関係者に頼まれてな、サンタとトナカイやってくれ言われてなぁ…もちろんプレゼントはこっちも用意しとるんやけど」

ほほ〜見た目に似合わず子供好きな人間なのだな。
そう言えばヤクザ稼業の人間は案外子供を大事にする奴も多いと聞いた事がある。

「おい、真島。向こうの車からトナカイの着ぐるみ余分なのあったやろ。持ってこいや」

数分後、眼帯男は満面の笑みで俺と秘書の手に茶色の布の塊を乗せた。
これはいったい?

「トナカイの着ぐるみや。はよ着替え」
着替え…って…何故命令系?
俺様の事を知らないのか、この眼帯男。

無理もない。
ヤクザなどという輩は学のない人間の行き着く先。
政治経済など疎くても当たり前かもしれない。

「うわぁ〜これ何処でお買い上げになったんですか? 今夜彼女との…ムフフ…使えそう」
何故秘書が素直に喜んでいるのか俺には最早理解不能だった。

「終わったら持ってってええで。トナカイのギャラ代わりや」
「本当によろしいんですか!? ありがとうございます!」

どれだけお前は安い男なんだ!
神宮京平の第一秘書ともあろう者が嘆かわしい…

「ほな話は決まった。とっとと着替え。ワシやってこないな真っ赤な服着るんやからな」

タコ坊主の有無を言わせぬ気迫に圧され、不本意にも「はい」と返事をしてしまった。
俺様の声が裏返っていたのは決して恐怖感のせいではない…
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ