小説

□蛇:
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 夢を見ている。
 いつの間にか暁は泣いていた。
 冷たく狭い、薄暗い空間で。何かに腰掛けつつ。
 暁は自分が泣いている理由を思い出せなかった。
 今いる場所の方は分かってきた。学校のトイレの個室の中だ。
 そうだ、と暁は思い出した。
 自分はついさっき教室内で無理矢理に足を広げさせられ、辱しめられたばかりだ。だからトイレへと逃げ込んで泣いている。
 暁はこれは一度経験したことがある。
 悲しくて悲しくて悔しくて涙が止まらない。
 女の格好をしているのに、暁が男だからという理由で女にはやらないようなことをされる。
 悲しい。
 これは暁が生まれついて背負ってきたもの、つまり男性として生まれてきたことによるものだ。そんなもののせいで暁が苦しむことになっているのが悲しかった。
 そして暁はこの状況を一度経験したことがある。先は分かる。
 暁のいる個室に人が近づいているのだ。しかし暁はそれに気づかない。
 尾谷だ。
 暁はそこで尾谷と鉢合わせる。
 そこで、そう。暁は個室にいるにも関わらず尾谷から離れようとして壁にぶつかって、泣きじゃくる。理性の皮が剥がれて暁は泣きまくった。
 尾谷は親のような、兄のような手解きで、暁を便器に座らせて涙を拭った。
 暁の世界は滅茶苦茶になってしまった。その中で、数少ない味方が尾谷だった。尾谷には感謝しきれないほどに助けられている。
 こんな自分に何の魅力があるんだ、と暁は思う。こんな自分が何をしてあげられるんだ、と思う。
 まだ涙が完全に収まらない暁は尾谷と目が合った。
 直後、何の予兆も無く尾谷が顔を暁の顔へとゆっくり近づけてきた。
 この感じはキスをされる、と暁は思った。
 嫌な、ヤナに無理矢理されたことを思い出す。
 尾谷はその手で暁の顎を少しだけ上に向けた。
 こんな自分がしてあげられることとは何か。暁に残されたもの。暁が持つもの。この時の暁はもはや観念していた。
 尾谷の口は、暁の鼻の穴を塞いだ。

 ーー?!

 夢を見ている。
 違う。何かが暁の想像と。
 暁は思わずそのままの姿勢で両手を左右に広げ、壁に手をついた。指先に力が集中して、そこが特に白くなる。
 その状態のまま暁は動けなくなった。
 個室の出入口は尾谷が塞いでいる。暁はこれ以上に体が仰け反らないように手をついてそれに力を集中させている。

 「んぁっ……」

 尾谷が吸った。暁の鼻水を。
 夢を見ている。
 異常な体験だった。暁の体の中の物が勝手に吸い出される感覚が。
 壁についている指の力が入りすぎて指が折れそうだ。
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