小説

□蛇:
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 「んぐぁっ……」

 また鼻水をひと吸い。
 暁は頭が働かず、されるがままだった。空中を見つめて何も考えられない。吸われる度に生理的な反応を返すだけだ。

 「んっ……」

 その内、暁の鼻の中は空になった。そして尾谷が口を離す。
 尾谷はゆっくりと顔を離し、暁と目が合いーー



 暁は目を覚ました。薄暗い部屋の天井。
 夢を見ていた。
 最初に気づいたことは、暁が夢と同じように現実世界でも壁に片手をついていたことだった。異常に力を入れて汗ばんでいる。それは体も同様だった。
 昼寝から覚めたら家事をしなければいけない。日常生活に染み込んだ使命感が寝起きの暁を動かす。暁はゆっくりと上体を起こした。
 ベッドに腰かけると、夢の内容が頭の中で繰り返された。

 ーー酷い夢……

 暁は夢占いを信じない。まして、これが暁の潜在的な願望だということなどとは欠片も思わない。
 夢とは記憶の整理だ。かつて起こったことがランダムで繋がっただけだ。それ以外のメッセージ性を暁は認めない。実際、相手の鼻水を吸うということは赤ん坊に対して行うと昔に聞いたことがある。今回の夢はそれだ。
 それにしても酷い内容だった。よりによって尾谷が出てくるとは。
 覚えているのは起きた直後だけだろう。夢はそういう傾向がある、と暁は期待をした。

 ーー暑い……

 制服のまま眠りに落ちてしまったせいもあって蒸し暑い。しかしシャワーを浴びるほどの時間でもない、と暁は時計を見ながら思った。
 夕食を準備してる間に義叔父が帰ってくる。
 一緒に夕食を食べているうちに1日の終わりが近づくだろう。風呂はそれからでもいい。
 外から入る光は陽が落ちていてかなり弱い。
 暁は憂鬱だった。疲れて仮眠をしたのに余計に疲れた。
 暁はまずブレザーを脱ぐことから始めた。
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