小説
□蛇:
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体操着に男女差はない。
ユニフォーム効果というのは大したもので、制服の時は美少女として浮いていた暁もジャージを着ればいくらかはクラスの中に埋もれて溶け込める。
体育の時でも髪は2つに束ねているのはやめていない。
理由は面倒くさいからだ。
暁は体育の授業で体を動かすことにそこまで興味がない。だから、いちいち運動用の髪型にするのが面倒くさい。
もう1つ。
暁の新しい髪型は段々定着してきたというか、誰も彼も避けているか、気にしていない。だから、暁は最早、外面のために髪型を変えたり戻したりするのが面倒くさくなっていた。
暁が最近思うことがある。
暁に触ろうとしないよく分からない龍次や、暁に匂いをつけて満足している高頭などはレアケースで、暁の知っている人物だとヤナが「普通」に近いということを思う。
――あ、優しい
準備体操で2人一組で両手を絡ませて組むメニューになった時、暁は目の前の名も知らぬクラスメイトが暁が分かるくらい暁の手を握る力を緩めているのを感じた。
どうやら暁はモテるらしい。
――あ、照れてる
手で触れて分かる彼の体温の上昇と、絡んだ指から感じる汗で暁は彼が照れていると分かった。
そんな彼を暁は冷ややかな目で見ていた。
どうやら暁は同性からモテるらしい。
暁はそんな状況を複雑に思っていた。決して最悪、ではない。
男に男としてモテたくはないということが女装をしている理由の1つだ。
今、目の前で男性に好意を持たれているが、それは暁の表面的な所で判断されている気がする。
カメラや盗聴器を仕掛けられて暁のことを1から100まで知り尽くされる愛され方に発展する気配は無さそうなので、今の状況は「より」安心できる。
すでに倒錯愛の世界に引きずり込まれているというのに、それがマシと思える程暁は十分おかしくなっていた。それくらい、最初の事件は暁にとって破壊的だったとも言える。
何にせよ、「惚れるな」と言う権利は暁にはある。
暁が狂っているとはいえ、以前思った通りそれは恋愛対象にまで波及している訳ではない。それどころか、男が男を好きになるのはおかしい、という幼い頃からの教育が暁の心身に刻まれているからこそ、それから身を守るために女装に走っているのだ。