小説
□頭:
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龍次による暁の着せかえ会があった次の日。
暁は休み時間には学校のロビーにいた。入学から結構時間が経ち、興味本位で暁を見に来る先輩はいなくなったものの、暁はロビー通いをやめてはないない。
それは新しい理由からだった。暁はクラスに馴染めず、孤立していたからだ。全員が全員、暁に関わろうとはしないが暁を遠巻きに眺めているせいで、暁は教室に居づらかった。龍次は表向きには暁に接触はしてこない。
休み時間はロビーに置いてある進路の資料を斜め読みして時間を潰す。読んだ物の内容を覚えていないというのは学生としては勿体無いかもしれない。
暁は資料を棚に戻し、近くの窓の側に寄る。開いた窓から見えるのは通り慣れた駐輪場。向かいの道路。そして香水の匂い。
ぞわ、と暁に鳥肌が立った。
誰かが後ろにいる。それも匂いが分かるほど近くにいるという状況は異常だ。
以前に尾谷が同様に暁の背後にいたことはあったが、それとは何かが違う。
そして暁はこの匂いを嗅いだことがあった。それがいつであったかは全く思い出せないが、どこかでこの匂いと出会っている。
とにかく、振り向かなければ話が始まらない。
――……っ?!
暁が意を決して振り向いた先にいたのは高頭だった。
昨日の今日で廊下ですれ違ったが、この休み時間にもここまで互いが接近するのは単なる偶然なはずがない。
暁は高頭とはあまり話したことはないどころか、もしかしたら一度も言葉を交わしていないかもしれない。
その理由は暁は高頭と接点がないだけでなく、高頭の高圧的な態度が暁を避けさせていたのもあった。現に目の前にいる高頭は暁を非常に見下した目線を向けていて、暁は不快感を覚えていた。
高頭は暁を見下しながら、ニヤニヤと暁を眺めている。
そしてこの距離だからこそ分かる高頭の香水の匂い。
昨日、高頭とすれ違った時にこの匂いを嗅いだかもしれない。しかし暁は帰ることに気を払っていたので、いまいち確信はない。
それよりも暁は高頭の目的が分からなかった。こんな廊下の端っこで暁に一体何の用なのだろうか。
暁より一回り大きい同級生が発する威圧感と不快感に、暁は言葉に困った。何かを言おうとは思うも、暁の上下の唇は渇いて張り付いてなかなか離れない。
「何……?」
やっと出せた暁の声は酷く掠れていた。