小説
□A:
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瀬尾 暁。
セオ アキラ。
せお あきら。
それが彼の名前。
全てを奪われ、理性以外を壊されてしまった彼は高校の入学式を終え、クラスメイトと共に自分のクラスの席についていた。
暁の顔は耳まで真っ赤だった。
それは恥じらいのせい。
暁の通う高校は私服校であるが、始めの1ヶ月間は制服で登校しなければならなかった。そうやって新しい門出には規律を叩き込むのだ。
各々中学校で着用していた学ラン、ブレザーを着て、教室は三者三様、鮮やかな光景を見せていた。
その中で暁だけが異質。女物のブレザーを着ていたのは暁だけだった。
肌色を見せていた唯一の人間である暁は目立っていた。
周りの生徒は何の説明もなく暁と同じ教室に放り込まれ、困惑していた。
暁も自分があまりに浮きすぎていることに困惑し、暁の教室は異様な空気に包まれていた。
自分を拾ってくれた義叔父と叔母の為にも進学校に入りたかった。
女装の申請をした。
それが通った。
暁だけが女子トイレを使用可能にしてくれた。
暁だけに更衣室を開放してくれた。
もう後ろには戻れない。
暁は卒業までこの学校でやっていかなくてはいけない。
「蛇田中学校から来ました……瀬尾 暁です」
教室で1人1人自己紹介をした時の空気の重さはそれまで以上だった。
「よろしくお願いします……」
拍手はまばらだった。