ゴリ誕文

□その恋、焦性につき(土→近)
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●その恋、焦性につき


とにかく渇くのだ。
喉ではない。
では何が?どこが?と問われても、根因の分からぬ土方には、自身の事だというのに返答のしようが無かった。

僅か息苦しいその渇感に、ここ数日土方は苛苛。
その煩わしさからなんとなく喉をゴクリと鳴らしてみると、少しだけ喉の奥がペタリと張り付くような感じがした。

もしかしたら、やはり喉が渇いているだけなのかも知れない。

取り敢えず水でも、と水場へ向かおうとした廊下で、数名の隊士達がバタバタと忙しなく駆けてくる姿が見えた。


「おい。どうした?」

「あ、副長。もうすぐ近藤局長がお帰りになるそうなんで、お出迎えをと…」


一週間程前から、近藤は京へ出張に行っていた。


(そういえば今日だったな)


隊士たちの様子を見る限り、本当にもう間もなく到着するようだ。
自分も出迎えようかと土方は思ったが、なんにせよ渇くのだ。


(水を飲んでからでも遅くはねぇか)


一先ずそのまま、潤いを目指した。


********


渇くのだ。
とにかく渇きが癒えないのだ。

ガブガブと水を飲んでも治まらぬ渇きに、土方は更に苛苛。
苛立ちそのままにタバコをくわえて玄関へ向かうと、「お帰りなさい」と沖田の声を一番に、その他隊士たち嬉々とした声が聞こえてきた。
それに近藤の帰りを気付かされ、少し歩を速める。
廊下角を一つ曲がれば、もう玄関だ。
足早に角を曲がると、見えてきたのは沖田にギュウと抱き付かれる近藤の背中だった。


一声掛ける。


「おかえり。近藤さん」


近藤が振り向く。


(…あ)


「ただいま。トシ」


近藤が笑う。


(…アレ?なんか…)


「留守中、ご苦労だったな。何か変わったことはなかったか?」


近藤が肩を叩く。


(潤った…な)


ここ数日己を苛立たせていた渇感が、途端に潤っていくのを土方は感じていた。

土方は驚いて、戸惑った。
戸惑って、心臓が跳ねて、なんとも浮かれたくなった。
そして、次に沸き上がった感情は、近藤に抱きついたままの沖田への憤り。


さて、土方。
先程までの渇感の理由がすっかり分かってしまった。

どうしたものかと思案を巡らせたが、とりあえず。
近藤に張り付く沖田を引き剥がす事から始める、事にした。



End.



2010.9.16



     

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