SS
□甘く冷たく
1ページ/1ページ
●甘く冷たく
夏と呼ぶにはまだ少し早いのだけれど、真選組の黒制服ではやや汗ばんでしまう日。
近藤と共に市中見廻りをしていた土方は、横を歩いていた筈の近藤の姿が見えない事に気がつき、キョロと辺りを見回した。
後ろを振り返ると、少し離れた店で近藤が何やら買っているのが見える。
タタタッと土方の元へ駆けて戻る近藤に、土方の頬が少しだけ緩んだ。
「はいトシ。暑いからアイス!」
息を軽く弾ませながら立ち止まった近藤が土方へと差し出したのは、サイダー色の冷たさ。
どうやら近藤は先ほどの店で棒アイスを買っていたらしい。
「まぁ確かに少し暑いけども」
けども、と言いながらも土方がアイスを受けとると、近藤は満足そうに笑った。
「でも俺、あんまりアイス好きじゃ…」
近藤の人好きのするその笑い顔に土方はどうも弱く、照れ隠しの言葉がつい口をついてしまう。
「いいからいいから。たまに食うと案外美味く感じるもんだぞ」
ん〜美味い、と近藤が食べ食べ歩き出し、アイスが早くも汗をかき始めていたので、仕方なく土方も冷たさを口に含みながら付いて行った。
「あなたを愛する〜」
「はァ!?」
突然耳に届いた甘さに、土方は思わず大きな声を上げてしまった。
耳の辺りから頬へそして最後には顔全体に、熱が昇るのが自分で分かる。
(マ、マズイッ!)
前方を歩く近藤には、どうやら悟られてはいない。
ホッとしつつも土方は、どんどん昇る熱を止められずにあたふたと顔を手で扇いだ。
「あはは〜。あなたをア・イ・ス・る。なんちて〜!!」
『アイス』を強調しながらアイスを頬張る近藤に、土方は嗚呼と思う。
(本当にこの人は…タチがわりぃ)
シャク。
シャクシャク。
歯を立てる度に小気味良く響く冷たさが、頬の火照りをどうにか紛らわしてくれているようで。
たまにはアイスも悪くない、と土方は思った。
End.