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□いつまでも僕をハラハラさせる貴方がただ笑っていますように
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●いつまでも僕をハラハラさせる貴方がただ笑っていますように
「俺は土方さんみたいな事は言いたくないんですがね。いくらなんでも、もう少し局長としての自覚を持ってくれやせんかねェ近藤さん」
近藤の部屋に沖田の声が静かに響く。
「いやだってほら…」
「言い訳ですかィ?」
穏やかさの中にも怒気が込められた声と普段近藤にはあまり向けられない冷視線に、近藤はションボリと肩を落としている。
「土方さんに報告しやすか」
所用で留守にしている鬼の名を出すと、その肩はビクッとなり、小さく震えた声が返ってきた。
「そ、それだけは〜…」
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つい先程、近藤はあわや死にかけた。
非番だった近藤は、新しく出来たという甘味屋へいそいそと出掛けた。
その途中、武州時代に見知った顔を見かけたものだから、懐かしさのあまり団子でも一緒にどうかと誘ったのだ。
だがその男、実はつい最近攘夷過激派に入った人間だった。
攘夷志士としてまだ名前も顔も知られていなかった為に、近藤はなんの疑いもなしに声をかけた。
ここで問題なのは、相手が帯刀していた事。
帯刀を許されているのはごく一部の人間だけだ。
廃刀令が周知されて随分経った。
そんな中、幕府の人間でもない者が帯刀していたなら真選組局長として当然警戒しなければいけない。
いくら久しい見知った顔に浮かれていたとはいえ、それを見逃した事は一から十まで近藤の不注意、いや、失態に他ならなかった。