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□明けぬ密月の宵
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●明けぬ密月の宵



気分がひどく落ち込んだ時に、近藤は無性に銀時に会いたくなる。
銀時の持つ明るさはどこか柔らかく、いかにも体育会系のギラギラとした元気しか持ち合わせていない真選組の隊士達とは、少し違っていた。

勿論近藤は、隊士達を苦手と思っている訳ではない。
当然の事ながら、普段は隊士達との無意味にテンションの高いやり取りの方が、銀時といるよりも楽しいのだ。

けれどやはり、気分がひどく落ち込んだ時には、近藤は無性に銀時の柔らかい明るさに会いたくなるのだった。


沈んだ気分のまま近藤が銀時に会いに行っても、銀時は嫌な顔一つしない。
例えば、今日のように休日の夜であったとしても。
あっけらかんとなにも考えていないように笑い、黙って近藤の話を聞き、けれど特に相談に乗る風でもない。
その空気が、近藤は居心地がよかった。
同時、銀時を便利に使っているようで、なんとも後ろめたくもあった。


「万事屋。わるいな」


その後ろめたさから解放されたかった、と言ったなら少し大袈裟すぎるかもしれない。
近藤はけれど、銀時に何となく謝った。


「ん?何?」

「んにゃ。いつも急に呼び出しちまって、さ」

「あは。なーにを今更。しおらしいゴリラはキモい」


何ぃ!?と少しだけ声を荒げるふうに装ってはみたけれど、今の近藤はそれほどの陽気を持ち合わせてはいなかった。


「…はぁ…まぁ、隊士の脱走なんて、今に始まった事じゃないんだけどな。今回は信頼してた奴だっただけにさぁ…」

「ふーん」


そっけのない返事はいつもの事。
それをたいして気にするでもなく近藤が銀時の顔を見遣ると、銀時はやはり柔らかく笑っていた。
銀時の柔らかい笑顔に、近藤の胸は少し軽くなる。


「俺さぁ。嫌なことがあると、なんかお前の顔見たくなるんだよね。安心するんだわ、何となく」


ハハッと力なく近藤が笑うと、銀時からもハハッと笑いが返ってきた。

軽くなった胸に加えて、先程の銀時に告げた謝罪の言葉。
『安心するのだ』と、気恥ずかしくて今まで伝えられなかった気持ちを素直に銀時に伝えられたのは、そのおかげだったのかもしれない。



     
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