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□冬の午後に鳶は飛んだ
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●冬の午後に鳶は飛んだ


冬だった。
天気の良い。
しかしながら決して寒くなく。
暖かな。


頭上を十文字に転と旋回する影を、そんな日に土方は見た。

「なぁ近藤さん」

土方が影から目を離さず声を掛けると、まるで土方の胸の内を見知ったかのように近藤が答えた。

「え?鳶?」

土方は少し驚いた。
驚いたけれど、よくよく考えれば、話し掛けた相手は近藤だった。


(あぁ。納得)


「そう。鳶」



悠々と舞う。
鳶。

悠々。


悠々悠々。




「近藤さん。あの鳥、風が見えてんだと思わねぇか?」

「なんだそりゃ」


鳶の尾がクイ、クイ、ヒラリ、と風を捉える。
一文字に伸びきった翼に迷いはない。


「見えない物が見えるって、羨ましいな」

「うん?」


悠々。


「俺には見えねぇんだよ」


右手の人差し指をスッと伸ばし、土方は近藤の胸を軽くトンと指差すように突いた。


「見えねぇ」



割に暖かな午後だった。

悠々と鳶が舞っていたのは。




「アンタにも見えてんのにな。見えないもの」


今度は自分の胸を軽く突いた。
体の中で、ドンッと、小さく響いた。


「不公平だなと…思っただけだ」





土方が呼び掛けただけで、近藤はすぐに土方の考えていることを言い当ててしまう。

いつも。



クイッと風を捉える尾に、スッと風を切る一文字の翼に。


土方は近藤を見て、無性に切なくなった。



End.



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