片隅

□はじまり
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「ジッとしてください!そうすれば痛くなんてしませんから!」
たくさんの注射器とメスが飛んでくる。

そうそう、言い忘れていた。
オレはたくさんの武器を持っている。
それは何故か。
もちろん趣味で、と言うのもあるが、それにしても多い。
ちなみに兄貴もたくさんの刃物を持っている。まぁこれも趣味でもあるが。
そして、この町には武器屋がある。鍛冶屋もある。
それが何を意味するのか。

自分でもウットリするほどの華麗な壁飛びであった。
全ての注射器とメスが、オレの元いた場所に刺さる。
そしてオレは、メンヘラの後ろに回り、
「死ね、気狂い。」
メンヘラの首を、あっという間に掻っ切っ…

…ちょっと待て。
オレの右手にあるのは、特にお気に入りのナイフ。
刃物専門コレクターの兄貴ですら持っていない、超有名な幻のスラッシュシリーズのシリアルナンバー一桁だ。
それが、こんな、メンヘラの血を浴びる。

「無理無理無理無理無理!!!!!絶対無理!!!!!」

だって考えてみろ!
こんなメンヘラの血、ナイフが変な覚醒でも起こしたらどうしてくれるんだ!
大体刃物に血って良くないんだ!錆びやすくなるんだぞ!
あぁもうとにかく絶対これは駄目!

とにかく落ち着こう。
ふぅ…と一息ついたオレは、メンヘラのほうをフッと見る。
何故かメンヘラは、色々考えて固まっていたオレを無視して、一歩も動かなかった。
何が起きた?後ろに回られたことに気がついてない?でもオレ、耳元で死ねっつったし。聞こえてないはずが…

あまりの沈黙に怖くなったオレは、思わずメンヘラの顔を覗き込もうとした。ら、
「素晴らしい…なんて強い!この僕の後ろを取るなんて!
そしてその慈悲深い心!命を取ろうとした相手を殺せないとは!何と優しい!
そうか!貴方は生まれる前に2つに別れてしまった、シィルさんの魂の片割なのですね?!
何と言うこと!僕は…あぁ僕は何てことを!シィルさんに逆らうなんて!」
大声で叫びながら泣き崩れた。
怖ぇ…怖すぎるだろこいつ。1年前にきたちょっと電波入った神父より怖ぇ。
「そうか!わかった!
だったらやっぱり貴方はシィルさんと1つになるべきなのです!
だって元々1つだったのだから、それが自然でしょう?!
さぁ!僕が今、貴方を元の姿に戻してさしあげま」
ゴツンッ!と、良い音がした。
だってなぁ…もう無理だろ。暴力で訴えて当然だろ。
これ以上、こいつの話聞いてたら、頭おかしくなるって。
ゴロリと転がるメンヘラから、出来るだけ遠い場所から家へ向かう。

今日はもう寝よう。そして今日のことは何もかも忘れよう。
そうだ今日の料理当番はオレだった。ノークルドに野菜貰いに行かなければ。
まず武器をしまわなきゃな。あぁ忙しい。

「待ってください…」
「ギャーッ!!!!!」
ガシッと左足を掴まれた。思わず大声で叫ぶ。
「どうか…シィルさんと1つに…」
メンヘラは、またブツブツと電波語を唱えている。
怖い。超怖い。この前ノークルドが教えてくれた墓場の幽霊の話より怖い。
「おおおおオレは1つになんかなりたかねぇんだよ!絶対嫌だ!」
言っても無駄なのはわかってるけど、とにかく諦めてもらおうと必死になったオレは、自分の意見を主張する。
いや、本当に言っても無駄なんだが。

だけど、メンヘラは思わぬ返事をする。
「…そうですか。わかりました。」
…は?
おいおい、今まで散々嫌だっつってたの聞かなかったくせに、何で突然そんな…
「シィルさんが、まだ完璧ではないから嫌なのですね…」
あ、やっぱりわかってなかったみたいだ。なんか安心。
「大丈夫!他のパーツも、ほとんど見当がついているのです!
だから、もう少しだけ待っていただけませんか?
わかっています。貴方も早く1つになりたいですよね。
ですが、今はその時期ではないのです。
大丈夫。あと本当にもう少しなんです。だから、だからですね、」

なんかまだまだ話が終わりそうにないんだが。
あぁグラグラする。電波にやられたようだ。
ゴメン兄貴…ご飯…作ってやれそうにないや…

クラッ、と倒れそうになった時、
「あれ?先輩、お友達ですか?
なんか…先輩にしては珍しいタイプのお友達ですねぇ。」
まさに天の助け。女神がオレの前に光臨した。
「ノークルド!助けてくれ!
こいつ電波なストーカー(予定)なんだ!」
「…ストーカー?」

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