片隅

□はじまり
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…ん?何だ?今、何か変な単語が…
えっと、何だっけ?
オレに…、つかえる…?
「「…っはあぁぁぁぁ?!」」
オレとノークルドは、同時に叫んだ。
だってお前、仕えるってお前、
「ああああああんた!もしかして、もしかしなくても!
まさかこれから先輩と一緒に暮らすとか言うんちゃうやろな!」
「えぇ、そうですが。」
サラリ、と嫌な返事をしたタシュの目は、キラキラと輝いていた。
いやいやいやいや!無理だろ!こんな電波と!一緒に暮らせなんて!死んでも無理!!!!!
「ターシュ!!!!!」
「はい?」
元気な返事だ。嫌になる。
「ツッ、つかえるのはなぁ、一緒に住まなくても出来るだろう?」
「はぁ…まぁ…ですが…」
「良い!気にしなくて良いから!な?!」
何とかしなくては。この電波のことだから、何かしらに理由をつけて一緒に住むことにされるぞ。
オレがソワソワと言葉を考えていると、ノークルドが大声をあげた。
「って言うかなぁ!あんた普通、女の人と、いくらお兄さんと一緒に住んでるからって、そんな、一緒に住むとかないやろ!
丁寧な口調と動きのわりに、考え方はそんな!」
いや、そんなこと電波に行っても無駄だろう。
「…え?」
…え?何だ?何でそこで反応を、
「あの、アツキさんは、女性…なんですか?」

そりゃオレは胸もない、髪型はショートカット、目つきも悪い、言葉も兄貴に教えられたせいか男口調、すぐ暴れるし男勝り…
くっ…確かに…確かにそうだけどなぁ…!!!!!

「オレは女だ電波野郎ーーーーー!!!!!」

バコォっと、オレが投げた石に当たって、タシュは屋根から落ちた。
だって…だってそうだろ…いくらオレでも、言われて傷つくことぐらいある…
特に今日は、結構女らしい服なんだぜ。
Tシャツ赤色だし、いつもの薄いズボンじゃなくてキュロットだし、ほら、靴にはリボンついてんだぜリボン。
「先輩!先輩は世界一綺麗でカッコイイで!ほんまに!」
あんまり女への褒め言葉に聞こえないのは、オレがひねくれてるからか?

大体オレが男みたいになったのは…
「あああぁぁ!!!!!オレのスイカァ!!!!!
おいっ!オレのスイカ!ここに植えたスイカの種が!」
「あ、お兄さん、お帰りなさい!」
「なぁオレの、オレのスイカ…」
「てめぇのせいなんだよ馬鹿兄貴ぃ!!!!!」
「え?!なになに何だよ?!」



「いっとっけどなぁ…うち、あんたのこと大嫌いやから。」
ノークルドは、こけているタシュに手を差し伸べた。
「あんたが先輩の庭におるのが嫌やから、早く出て行って欲しいからやな!」
「ありがとうございます。ノークルドさん。」
ニコリ、と、また怖い笑顔をタシュは見せた。
そしてそれに反応して、ノークルドはサブイボを全身に浮かべる。
「名前呼ばんといて!キモイ!」
「あぁ、スイマセン。」
「…わかれば良いねん、わかれば。」
ノークルドは、満足そうな声を出した。なんとも単純である。

「ノークルドさん、お強いですねぇ。どこで体術を習ったんですか?」
「だから!名前呼ばんといてってば!」
「あぁ、スイマセン。」
また同じような会話。タシュはあまりこりない性格のようだ。

「…うち、全然強くないもん。」
随分と黙った後に、少し不満そうな声でノークルドは言った。
「他の町でやったら、そりゃあ負ける気せんけど、でも、この町の中じゃあ、うちなんか…」
「へぇ、この町の人たちは、みんなそんなにお強いんですか?」
タシュは、自分の独自の研究によって決めた方角だけを頼りに動いている。
アツキをパーツの材料に決めたのも、ここに来て、この辺で一番綺麗な瞳の持ち主だったからと言うアバウトな理由だ。
だから当然、タシュはここが町であることすら、今はじめて知ったのだ。
「あんた…嘘やろ…この町知らんとかないで…」
「はぁ、スイマセン。」
ノークルドは、かなり大きなため息をついたあと、少し真剣な顔で話し始めた。
「ここは、独立の町、アーカドエクラ。
どんな国にも屈しない、世界最強と言われる民族の暮らす町や。」

「あぁ…ここがあの、有名な。」

アーカドエクラ。
どんな農作物でも作れる大地、川の傍なので漁業も盛ん、そして何より、世界最強の民族が暮らしているため、今までいくつもの国が、この町を手に入れようと戦争を起こした。
が、アーカドエクラは、どの国にも負けることはなかった。それも、ほとんど無傷で、である。
あまりの強さに、もう誰も逆らわなくなったこの町。同時に、世界から捨てられた町。
そう、独立の町などは、ここに住む人間が勝手につけた名前なだけで、周りから見たアーカドエクラは、捨てられた町、なのである。

「世界に捨てられた町…」
タシュは、ニコリと、
「僕に、ピッタリの町だ。」
また気味の悪い笑顔を浮かべた。

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