片隅

□はじまり
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小柄なノークルドは、普段は可愛らしい女の子だ。
家事は完璧、性格も優しく温厚、容姿もバッチリ、そんな、男の理想を絵に描いたような子だ。
だけど、
「あんたなぁ…うちの…うちの先輩をストーカーやなんて…」
キレると、
「羨ましすぎるんじゃボケェ!!!!!」
オレん家の前を吹き飛ばすほどの怪力を発揮する。

何と見事なクレーター。まるで隕石でも落ちてきたようだ。
あぁ、一昨日花壇に埋めたチューリップは全滅だな。
兄貴が楽しそうに埋めてた食べた後のスイカの種も(まぁどうせ育たんかっただろうが)、もう駄目だろう。
「先輩!大丈夫!うちが守ったるから!安心して!
ストーカーなんてな、こうやって、こうやって!」
手でコネコネと何かをこねる真似をしてる。ノークルドは本当に可愛いなぁ。
でも、目の前の惨劇は、この子がやったのだ。
…人生って色々あるんだなぁと思い知らされる。

オレたちが和やかな空気で話していると、後ろから、着地音が聞こえた。
まさか。
「ふぅ…危ない危ない。もうすぐで死ぬところでした。」
「なっ!!!」
何と、電波ストーカー(予定)は、今の衝撃をジャンプでかわし、無傷でオレの家の屋根に立っていた。
しかし問題はそこではない。それぐらいなら、この町に住んでるやつら、全員が出来ることだ。
だけどこいつは、何と、ノークルドが地面に衝撃を与えて、オレたちが話している間、飛んでいた、と言うことだ。
ゆっくり数えても、20秒は経っている。
そんな馬鹿なことがあるか。地球には重力があって、それに人間は逆らえないんだぞ。
なのにこいつは、それに平気で逆らいやがった。
「やはり、シィルさんの片割だけあって、従えてる人間もお強いんですね。
だけど、まったく美しくありません。女性のくせに、なんて野蛮な。」
…これはヤバイ。
もしかして、さっきオレが後ろを取ったのは、マグレか何かだったんじゃないか?
もしそうなら、兄貴のいない今、オレたちはこいつに勝てないんじゃ…
「何やあんた!何がシィルさんの片割や!
先輩にはなぁ、アツキっちゅう可愛い名前があるんやぞ!
そんなんも知らんくせにストーカー…!なんちゅう!」
「ウワッ!ちょっ…ノークルド!」
駄目だ、挑発するな!
本当に万が一、こいつが強かったらどうするんだ!
それもこのメンヘラ、刃物はまだまだありますよみたいな感じで、趣味の悪い白いコートの中に手を突っ込んでいる。
「はい、何ですか?」
「ごめん!違うんだ!こいつストーカーじゃなかった!間違えた!」
「え…?そうなんですか?」

オレの武器はあんなに遠いし、ノークルドはパワータイプ、ってことは、微妙に、ほんのちょっぴりだが、負ける可能性がある。
ちょっと腹の立つ解決法だが、オレは負ける勝負はしない派だ。
「おいメンヘラ!」
オレが声をかけると、メンヘラは左足のひざを地面(正確には屋根)につき、左手を固く握り、胸に当て、忠誠のポーズ(多分)をとった。
「タシュ、とお呼びください。」
うん、これはちょっとだけ気持ちが良い。
「良いか、タシュ。
オレはシィルが完璧になるまで、1つになるつもりはない。」
「はい、それはもちろん。」
よぅし。何とかいけそうだ。
「だったら、オレの所にいつまでもいないで、早く他のパーツたちを」
「いえ、それは今は無理なのです。」
…はぁ?
「申し訳ありません。まだ、やつらの居所はつかめていないのです。
でもご安心を!やつらは僕が行く場所に、勝手に現れますから。」
おいおい…なんだそりゃ。
まぁ良いか。とにかくこいつがどっかに行ってくれりゃあオレは何でも
「ですから、僕はパーツを全て集め終えるまで、貴方に仕えようと思います。」

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