‡イベント投稿小説‡

□ つごもり◇
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  つごもり


秋から冬に移ろうとしている季節だというのに、何故だか厚着をしていたくない夜だった。
ベッドの上に腰掛けたまま、どうにも動く気になれないで柔らかな毛布を寄せてうずくまる。
開け放ったままの窓からひやりと夜風が吹き入って、羽織ったシャツの隙間から肌を撫でる。
胸の中に何か足りないものがある気がした。何だかとても空虚な気持ちになって背を丸めて自分を強く抱きしめる。
そういえば同級生と同じ姓を持つ文壇の鬼才は、漠然とした不安に駆られて命を絶ったのだと教わった。

きっと、人が死にたくなるのはこんな時。

ふと顔を上げて窓辺に歩み寄り、空を見上げてようやく気がついた。
今夜は月が無い。
静かな風に薄いカーテンがふわり、揺れる。

「まだ起きてやがったのか、テメエは」

背後からこの部屋の主の声がした。広すぎるこの部屋の主の声が。
顔だけ振り返ると眉間に皺を寄せた彼が自分の方に向かって歩いてくる。





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