V

□【†ゆびきり†】
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【†ゆびきり†】














暖房が効いてる廊下をやたら冷たいと感じる。

あるはずの音が聞こえない。

それが恐怖感を煽った。

息があがる。

転びそうになって壁に寄り掛かったところへ声がかかった。

「…っ戸梶!」

そちらを見る。

大きな硝子窓の周りに数人が集まっていた。

長くも無い廊下が……果てしなく長く見える。

足は完全に止まってしまっていた。

肩で息をしている戸梶に時生と筒本、
そして源治が駆け寄ってくる。

「………伊崎は?」

尋ねた声は落ち着いて聞こえたかもしれない。

心臓が煩くて自分の声が聞こえなかった。

だから、時生にも聞こえたか怪しいと思い眉を寄せる。

「…今、集中治療室に……手術は成功したけど、
今夜持ちこたえられるかが……」

時生の視線が廊下の奥にある窓硝子の向こう側へむけられる。

自然、戸梶の視線もそれを追って硝子窓の向こうへ……

しかし、それを源治の苦しげな声が引き止める。

「俺を庇って…ナイフで刺されたんだ…。俺のせいで…っ」

「……そうか…」

歯を食いしばる彼を無表情で見つめ、
戸梶は頷いただけだった。

源治は続けて懺悔のような言葉を吐き出す。

「悪ぃ…伊崎が…伊崎が死んだらッ……俺のせいだ!!」

泣き声に近い声で叫んだ声に、
硝子窓の側に居た牧瀬や芹沢達も彼の方を振り返る。

戸梶はすっかり丸くなってしまっている源治の背を撫でた。

「……馬鹿か。てめえのせいじゃねえだろう。」

「……っ」

そう告げて下がっている源治の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

顔をあげた源治の頬を涙が伝う。

戸梶はけして源治とは目を合わせずに
伊崎のいる部屋へ足を向けた。

目が合った瞬間に口汚く罵って殺してしまいそうだと、
内心そう思いながら歩く。

走る事をしないのは、足に力が入らないからだ。

立っているのがやっとで
ゆっくりと辿り着いた硝子窓に手をつく。

その向こう側に寝かされた伊崎の姿を見て、
思わず息を吐いた。

途端に涙が零れる。

涙だけがただ静かに頬を伝い、止まらなかった。

額を硝子につける。

「瞬くん……」

呟きは大きいのか小さいのか自分ではわからなかった。

下がっていた視線を伊崎へ向ける。

かすれた声が告げる、小さなそれを全員が聞いていた。




「……お願い、先にいかないで…

…どこにも…いかないで……


お前がいなくなったら俺は…ッ」



「戸梶さん…」



筒本が伸ばした手は、戸梶に触れる事は無かった。

触れてはいけないような気がして、ただ下に下ろす。

彼が強く握った拳は白くなって震えていた。



「…なぁ、頼むぜ。止めてくれ。

俺の、お願いなんだからよ。

聞いてくれんだろ?」



無理矢理笑みを浮かべる。






「俺の為に……生き残れっつってんだよッ!馬鹿野郎…ッ!!」





悲痛な声で呻くように吐き出された言葉は、
誰しもの耳に痛く響いた。

















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