君と僕の諸事情

□諸事情 2
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目の前で淡々と出欠を取る先生。
見た目はあの頃よりも
幼さが抜け、格好良くなっていた。

先生…慶貴さんは私の家庭教師だった。
塾よりは、と言って親が私と兄を一緒に見てくれる先生を選んだ。
親の友人のご近所さん。
中3の夏まで教えてくれた先生。
自分も就活があるからと言って夏までしか教えてくれなかったけど
すごく分かりやすくて、大好きだった。

そのときの慶貴さんは、大学生で私の目にはすごく大人に見えた。

憧れのような恋心。

それは打ち明けることすら出来なかった。
もっとも、あの時打ち明けていたら
今日は目を見ることすらかなわなかっただろうが。

「宗形…宗形渚!」
「は、はいっ!!」
「今は出欠中だぞ。
せめて、自分の名前が呼ばれてからぼーっとしろよ。」

慶貴さんはそう言うと、ふわりと笑った。
その笑顔に緊張が解かれたのか、クラスメイトたちが
“そんなんでいいんですかー”
なんて言っていた。
私がぼーっとしていると、慶貴さんと目が合った。

「じゃぁ、次のやつなー。」

目が合うと、慶貴さんは少しだけ目尻を下げ、出欠の続きを取り出した。
出欠が取り終わり、クラスの委員長の選出を始める先生。
だけど、みんな誰かに押し付けようとしているようでなかなか決まらない。

「じゃぁ、俺が決める。
それでいい奴は?」

なかなか決まらずに、時間だけが過ぎていく。
それに困った慶貴さんがそう言い出せば、“はーい”とだけ返事をした。
私も、それでいいと思ったので、一緒になって返事をしたが
それを物凄く後悔することになった。

「じゃぁ、宗形。」
「へっ!?」
「気を抜くと、ぼーっとするからな。
じゃぁ、HR終わったら学年職員室に来るように。」
「いや、あの…」

私が何か言うよりも早く、チャイムが鳴った。
そして慶貴さんは、早く来いよ。とだけ言うと教室を後にした。
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