文章2

□ラブストーリーは突然に 3
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最近の笹川のお気に入りは一年の沢田綱吉とか言う男らしい。
何故ならここ数日笹川の口をつくのは専ら「沢田綱吉について」の話題ばかりだからだ。

今日も此処に来てから今まで、笹川の口からは「沢田綱吉」の話題しか出ていない。
去年僕にしたようにボクシング部への勧誘に熱心に励んでいるようだが、相手はイマイチ乗り気ではないらしい。
こいつも一々見る目の無い男だ。誘う相手にことごとく失敗して、ほんと馬鹿だとしか言い様がないね。
だけど笹川はしきりに「沢田綱吉」のことを褒めている。
「あいつは百年に一度の人材だ」だの「今まで出会った男の中で一番何かを感じさせた」だの、拳を握り締めては毎日のように語り尽くしている。
こいつは一戦交える相手全てにこんなこと言って回ってるんじゃないのだろうか。

「だから言ったじゃない。君の勧誘は鬱陶しいだけだって」
横目で「だからいい加減にしろ」と伝わるように願いながら睨んでやった。
だけどそれはやっぱり笹川には伝わらない。
「むぅ・・・!何故だ!!俺がこんなにも熱心に誘っておるのだと言うのに!!」
「それが暑苦しいんじゃないの」
ただでさえ蒸し蒸ししてるんだから、そりゃ相手もさぞかし暑苦しいことだろう。
「この俺の心意気が解らんとは、お前もまだまだだぞヒバリ!!」
「一生理解出来なくて結構だよ」
これ以上ないってくらい心の底から本心を告げてやったってのに、笹川は呆れたような馬鹿を見るような笑いを浮かべて僕の肩を軽く叩いてきた。
「お前のその性格には俺も慣れたもんだからな。今更何を言われても気にせんが」
僕の肩に置いた手を更に軽く上げてぽんぽんと叩く。
あ〜。ほんっと鬱陶しいこの男。
何その「お前も大人になれよ」とでも言いたげな表情は。なにこの宥めてるつもりで実は優位に立ってますみたいな手は。
「気にしろよ」
強い口調でそう言って拳で顎を叩きつけてやった。割れなかったのが悔やまれるところだな。








笹川の言う「沢田綱吉」がどんな男かなんて知る由もつもりもなかったが、案外時間が空かない内にその機会はやってきた。
風紀委員が新しく委員会で使う予定の応接室で寛いでいたら、その「沢田綱吉」が弱い群れを連れて現れたのだ。
煙草を吸っていた草食動物と怪我した右手を庇っていた草食動物、それらを咬み殺してやった後に「沢田綱吉」が妙な動きを見せて、あろうことかこの僕に応戦した。
本気で殺してやろうかと思ったところで変な赤ん坊が現れてその場はお開きになってしまったけど、笹川が言う通り中々あの沢田綱吉と言う男はスジがあるのかも知れない。
それより僕は赤ん坊の方が気になるところだ。あの赤ん坊はきっと只者ではない。
だけどあの沢田綱吉とか言うのはいずれ絶対咬み殺してやるけどね。
スリッパで頭を叩かれたなんて生まれて初めてだよ・・・・。
やっぱり絶対殺す。






* *




青天の霹靂だ。これから夏だと言うのに明日は雪が降るのかも知れない。
いつも、それはもうこれ以上無いって言うくらい鬱陶しい笹川が、最近食欲がないと言い出した。
もう見慣れた馬鹿でかい弁当箱を前に箸もつけず、不気味なくらいに静かな暗い顔をした笹川が蹲っている。
なんだって言うんだ一体。ほんと馬鹿の行動は読めなくて困る。
「・・・・ねぇ。鬱陶しいんだけど。食べないならどっか行けば」
ご飯時に隣でうじうじされてたらこっちだって気分が悪くなるってもんなんだよ。
なのに僕は苛々としながらも断ち切ることが出来ずに、こうして並んで座って笹川に声掛けているわけだけど。
「ヒバリ・・・・」
「なに」
「俺はどうしたと言うのだろうか・・・・」
そんなのこっちが聞きたいよ。こいつがおかしいのなんて日常茶飯事だけど、今回はパターンが読めなくてこっちだって困ってるって言うのに。
「僕が知るわけないだろ」
もういい加減相手にしているのも面倒臭くなって、僕は早々と自分の昼であるパンに噛り付いた。


「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

ああ、ほんと鬱陶しい。いい加減にしてくれ。
そろそろ本気で蹴飛ばしてやろうかと意気込んだ瞬間に、ご飯も食べずに蹲っていた笹川が勢い良く立ち上がった。
だからその突発的な行動やめてくれない。心臓に悪いったらないんだけど。
「ええい!!どうもこうもさっぱりわからんわ!!うじうじ考えることは俺の性に合わん!! ヒバリ!!!」
目を丸くして立ち上がった笹川を見上げていると、突然大声で名前を呼ばれた。
「・・・なに」
「俺はお前が好きだ!!!」







      
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