文章3

□くせになるちぇりー
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最近雲雀がハマっている菓子がある。
それはピンクというよりは赤に近い色をした、飴よりは柔らかくガムよりは弾力のあるゴムに味のついたような代物、俗に言うグミというもので、数あるグミの中でも如何にも海外の商品らしい包装紙に無造作に詰め込まれ、一袋三百円で売られているそれが雲雀のお気に入りらしい。味はもちろんちぇりー味、雲雀曰くだ。
ぐにぐにとした感触の一粒一センチ大の赤いグミの周りには、砂糖がこれでもかというくらいにまぶされてある。食べてみればグミが思いのほかすっぱくて、それを周りの砂糖で緩和しているようだった。
今日も雲雀は暇を見つけてはそれらを口に放り込み、細い顎を忙しなく動かしている。
「そんなにウマいのか、それは」
「うん、なんか止まらないんだよね」
俺だって何度か口にはしてみたが、その時の感想としては、別にまずくはないが好んで食べようとは思わない、だった。こいつは何をそんなに喜んで食っておるのだか。
「そもそも、そんなもん何処で手にしたんだ?お前が好んで選ぶような代物ではなかろう」
気付いたらウチに常に常備されてあったからあまり気にしたこともなかったが、そういえばどうしてこんなものを食べようと思ったのだろうか。
起源を探ろうと質問を投げかけてみれば、雲雀はまた一つ赤い塊を口に放り込んでその切欠を話し始めた。
「二週間くらい前かな、牛の坊やと会った時にね、彼がお土産にって渡してくれたんだ。とりあえず貰っておいたのはいいけど食べる気もなくて放置してたんだよね。それがこないだ何となく思い出して食べてみたら予想外にハマっちゃって。このすっぱいのがいいのかな。あと海外のお菓子って感じの安っぽい大味感もいいのかも知れない」
「それで自分でも買うようになったってわけか」
「うん、貰った一袋は一日で食べちゃったし。海外の輸入食品とか置いてる店を何となく当たってみたら、そこに普通に売ってた」
少しだけ嬉しそうな顔をして雲雀はまた、口の中にグミを補充すべく袋へ手を伸ばした。こんな菓子一つで嬉しそうにする雲雀も中々可愛いではないか。
それにしたって一日で全部食べきるとは雲雀にしては珍しいことこの上ない。まあ本人が好きだと言うのなら構わんのだが。
「虫歯にならんように気をつけろよ」
「わかってるよ」
今のところ軽く四日はこの菓子の袋が常に家に置かれてある。夜寝る前には口を開いている袋も朝起きれば開封される前に戻っているのだから、とりあえず今は一日に一袋ペースは崩されてはいないらしい。単純に一袋というが、結構な量だと思うぞこれは。
「別に僕が全部食べてるわけじゃないよ。君だって何だかんだ言いつつ摘んでるし、哲だって食べるときもあるし。まあほとんど僕が食べてるけどさ、相手が腹が減ったっていうときだってあげたりしてるんだから」
と言うことは、あの雲雀が仕事中にも常にこれを持ち歩いているということだ。まあそうせんと袋の中身も減らんか。
腹が減った相手に出くわすたびこんなちぇりー味のグミを食わせるってお前、顔がパンで出来ているどこぞのヒーローみたいな。
「お前が人に食べ物を与えてやるとは、相手もさぞかしびっくりすることだろうな」
しかも渡されるのは赤いちぇりー味のグミだぞ。雲雀からグミ(しかもちぇりー)を出されたとき、果たしてその相手はどんな顔をするのだろうか。

「人になんてやらないよ。この鳥とかハリネズミとか、あとはたまに獄寺隼人の猫とか変な猛禽類とか」
「動物にそんなもん食わせるな!アホかお前は!」
いや動物というかそれは一部でほとんど匣兵器なのだがな!しかも他人のものにまで勝手に!
思わず声を張り上げれば雲雀は拗ねたようにむっと口と眉を曲げた。
「何その言い方。向こうだって好んで食べてるんだからいいじゃない。それに君とこの有袋類だって食べるよ?」
「我流にまで食わせとるのか!!」
「やめてその変な名前」
名前云々はともかくとして、グミなんぞ動物が食っても大丈夫なもんなのか!?
「ええい!こんな見るからに健康に悪そうな赤い物体などを喜んで食いおって!!」
とりあえずよく分からない勢いに任せて、雲雀の手元にある袋から中身を適当に掴んでまとめて口の中に放り込んだ。
そしたら四つほど入ったそれらが互いに酸味を発揮させ合って、これでもかというくらいすっぱい味を口内に広げてくれた。
「う・・、すっぱ・・・!」
「馬鹿じゃないの君。そんないっぺんに食べたら酸っぱいに決まってるだろ」
涙目になってすっぱさを耐えている俺を雲雀は心底呆れた口調で馬鹿にする。言い返そうにもすっぱいのが邪魔して口は開かない。
何だってこんなに酸っぱいのだ!周りに大量付着していた砂糖はどうした!!




     
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