文章1

□面食い (短文)
1ページ/4ページ


今まで、人間見た目ではないと思って来たが、実は俺は面食いなのかも知れない。
好みのタイプなど聞かれてもイマイチぴんと来るのもなかったが、この少しの動悸と緊張が、自分が今更ながら綺麗な顔に弱い事を知らしめていた。
俺の恋人である雲雀恭弥もそういえば綺麗な顔をしている。
雲雀とは付き合いが長いし、あいつに惚れたのは顔立ちよりももっと違う時限での話なので今まであまり気にした事も無かったが、訪れる先々で「綺麗な男だ」と言われているのを聞いた気がする。






「おや、お久しぶりですね。晴れのリングの守護者さん」
ボンゴレ邸の所有する広大な庭の片隅のベンチに、優雅に本を読みながらそいつはいた。
「クフフフフ。どうされましたか?そんな驚いた顔をして」
綺麗な笑顔で俺に語りかけてくる。
コイツとは数える程度にしか会話をしたことがない。この男とはだが。
十年前、いきなり並盛に現れたこの男が率いる二人の男の一人に俺は襲われたのだ。
見事に敗北してしまったが、その時の俺は強い相手と闘えたことに喜びを感じたのを覚えている。
それを雲雀に言ったら「プライドがなさすぎだ」と散々馬鹿にされたが。
あいつは負けることを極端に嫌う男だから、俺のような考え方は受け入れられないのだろう。
雲雀が一度この男に負けた時は、ボロボロの体をもってしてもプライドだけでやり返したとか聞いたな。
10年も前の話で、それから色々あって今は仲間だと言うのに、雲雀は未だにこの男を毛嫌いしている。
この骸と言う男を。



「珍しいな。今日はいつものクローム髑髏とか言う女ではないのか」
「ええ。僕達の体の方も色々ありましてね。まぁ、おかけになって下さい。時間があるようでしたら少しお話しませんか?」
骸は自分の隣の空いたスペースを手で示して座るように促す。
俺は骸に促されるままに隣へと腰掛けた。
特に急ぎの用事が無かったのもあるが、骸とゆっくり話をする機会もなかなかないので興味を引かれたことの方が大きい。
かと言って、何を話して良いかもわからず、俺は少し上を向いて晴れた青空を見上げていた。


「・・・・あなたは」
骸が急に口を開いた。
そのことに何故か俺はびっくりしてしまった。
「な、なんだ!?」
「本当に晴れの指輪にぴったりの男ですね」
微笑みながら骸が言う。
「?どういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ。雄大で、周りを常に明るく照らす。温かさを与える。大きく包みこんでくれる。貴方にぴったりだ」
そんなことを言われるとなんだか照れるんだが。
「昔から太陽は常に生物の源の一つであった。生きることへの道しるべになってきたのですよ」
骸が空を見上げる。その先には真っ青な空に照りつける太陽があった。
「そうか・・・。俺は、俺の大事な人間達にとって、太陽のような存在になれるだろうか。この指輪の名に相応しい人間になれるだろうか」
そうだ。俺には使命がある。この指輪に恥じないように。そして大事なものを守れるように。
そして、俺の大事な一人を包み込めるように。
そんな俺の言葉を聞いた骸が、視線を向けてくる。
「大丈夫ですよ。太陽無しでは地球は成り立たない。・・・空も雲も風も、みんな貴方のことが好きでしょう?」
骸が笑う。相変わらず憂いを帯びた表情をするやつだ。
でも、その憂いも、こいつの顔の美しさを一層際立たせるような感じがする。
俺はその表情に目が離せなくなってしまってじっと骸を見つめていた。
「・・・僕の顔に何か付いてますか?」
しまった。露骨に見すぎたか。
「いや!なんだ・・・その、綺麗な顔をしていると思ってな!!」
焦った俺は、つい馬鹿正直に思っていたことを口に出す。
ほら見ろ。骸が面食らっているではないか!
俺は今更ながら少し恥ずかしくなって、中学生のガキみたいに俯いてしまった。
きっと顔が赤くなっているはずだ。
「晴れの守護者に褒めていただけるなんて嬉しいですね」
目を細めて骸が笑う。俺は一瞬、骸の影の昏い部分を見たような気がして居た堪れなくなった。
「そうだもったいないぞ!折角綺麗な顔をしてるのだから、もっと明るく笑え!そうすれば、お前はもっと魅力的になるぞ!!」
骸の肩を軽く叩いて大声で叫んでやったら、やつは驚いた表情でそれから困ったように笑った。
うむ。さっきより数倍良いぞ!俺は人の暗い表情は好きではないのだ!


  
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ