文章1

□了平二号
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「明日の飛行機で帰る。夜には着くだろう」
そう言って了平から電話があったのは昨日の夜だ。
らしくなく浮かれながら僕は夕食の材料を買いに近所のスーパーへ来ている。
了平とは2ケ月ぶりに会う。
一緒に暮らしてるけど、僕も了平も仕事柄ほとんど海外に出ることが多くて二人でいる時間はすごく短い。
また二人とも一度仕事に出ると用がある時以外は連絡を取ることもしないから、何ケ月も音信不通になることだってしょっちゅうだ。
まぁ、連絡が無いのは元気な証拠だと思ってるからいいんだけど、やっぱりできれば夜は家に帰って二人でゆっくり過ごす生活をしたいと思うのは否めない。

今日の夕飯は何を作ろうか。やっぱり和食かな。
あの男は見た目の印象通りに和食好みで、海外の食事は口に合わないらしく毎回大変な思いをしている。
初めてイタリアに行って帰って来た時なんか酷かったものだ。
1ケ月で体重が5キロも落ちてしまっていて、どうしたのかと問うと「食べ物が口に合わずほとんど食事を取ってない」ときた。
現地には日本食レストランだってあるし、日本の食品が売ってるお店もあるのに、初めての海外で右も左もわからなくてそんな余裕は無かったとのことだった。
それでも初めはなんとか現地の料理を口にしていたが最後には胃が受付けなくなってしまったらしく、物を食べれず痩せてやつれて帰って来た了平を見て僕は泣きそうになったのを覚えている。
了平は大した料理もできないから(ちなみに得意料理は鍋とカレーだ)僕は毎回彼が出張に出る度に簡単なレシピを教えたり、向かう国の滞在先の近くに了平好みのレストランをいくつかピックアップしてリストにしたものを渡したりするようになった。
一重にこの僕がここまでするのも愛故だと言うのにあの筋肉は気付いてもいないのが腹立つけども。
それでも彼は海外での食生活には色々苦労しているみたいだった。

うん。やっぱり和食だな。ベタだけど肉じゃがにしようか。あいつ大好きだし。
刺身も買ってお酒のあてにしよう。
了平は酒には弱いけどビール一杯くらいなら付き合えるでしょ。
こんなことしているとまるで主婦だ。まったく情けない。もう気にしなくなったけど。今更だし。


  
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