文章2

□FIFTEEN'S SUMMER 前編
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「笹川くんてさ、実は結構カッコイイよね」
「わかる〜!それにすっごく優しいの!こないだね、アタシが焼却炉にゴミ捨てに行こうとしてたんだけど量が結構多くてさ。一人でそれ抱えてたら、偶然前から歩いて来た笹川くんが「女が一人でこんな量を持つのはしんどいだろう」って言って全部持って行ってくれたの!わざわざ引き返してだよ?しかもクラスも違うし当番でもないのにね。ほんと感動しちゃった!」
「下心なんて全くなくって素でそんなことしてくれるのが良いんだよね〜!アタシも助けてもらったことがあるんだ。こないだの球技大会の時にね・・・」

偶然通りかかった裏庭で、また偶然聞いてしまった会話の内容がコレだった。
三年に上がってから笹川の人気は絶賛急上昇中だ。ちらほらと女達が騒いでいるのを耳にすることも多い。
今だって三人の女がキャーキャー言いながら、笹川の良い男っぷりを褒め称え合っている。
四月に行われたボクシングのジュニアクラスの全国大会で見事に優勝を果たした笹川の人気は益々上がり、聞くところによると他校ではファンクラブまでがあると言う噂だ。
本当か嘘かは知るところではないが、僕としては正直おもしろくないというのが本音なワケで。
大体ね、ついこないだまで変わり者扱いしていたくせに、今になって騒ぐなんてどう言うことなんだよ。女ってのはほんと分からない。昨日までモテない眼鏡男が、眼鏡を外したら実は美形でしたって言う古い少女漫画の典型を今でも地でいってるんだから。
確かに笹川は、顔つきも段々と男前になってきているような気がする。あの妹と同じ血が流れてるんだから、まあ基本の顔立ちは良い方なんだろう。
そしてあの体格と性格・・・はともかくとして、一般的な男達よりも遥かに強いし、女達が騒ぐのも無理はないと言えばないんだろうけど。

笹川と知り合って、それから手を繋いでキスをするようになってから、僕は自分の独占欲の強さに驚いた。
そんなものは自分とは一生無縁だろうと思っていたのに、笹川と出会うことによってそれに気付かされたのだ。
笹川はあんな男だから余計に僕の不安が大きくなって、それが独占欲として表れるのかも知れない。なんにせよ、今のこの状況は僕にとって激しくおもしろくないと言うことだ。
さっさとその場を通り過ぎようと足を踏み出したところで、それを引き止めるかのように女達の声が聞こえてくる。
「D組のミホがね、笹川くんに告白するって言ってたよ〜。笹川君って彼女いなさそうだし、付き合っちゃうかも知れないね。だってミホ可愛いし」
「へ〜そうなんだ!笹川くんとミホなら確かにお似合いかもね〜。絶対OKするよ笹川くん!」
なにそれ。絶対OKするって、一体何の根拠があるんだよ。
「アタシ達もミホのこと応援してあげようよ!」
いいから。いらないから。余計なことはしないでくれ。D組のミホだか何だか知らないけど、ほんと余計なお世話だから。
なんで女って無駄に仲間意識が強いんだ。確かに笹川に『彼女』はいないけどね。いないけど。
「僕という人がいるんだから」と言って良いものなのか、つい躊躇してしまう。それほどに僕達の関係はあやふやで形のないものだった。
D組のミホがいつ笹川に告白するのか気になって仕方がないけど、これ以上ここに居ると変なボロが出てしまいそうで、ようやく僕は今度こそその場を去るために足を動かすことに成功した。


どれだけ待っていても一向に先へ進まない笹川のせいで、僕は自分から動かなければならないことを悟った。
初めてのキスは意外にも笹川からだったけれど、それだって軽く触れてすぐに離れていってしまう程度で、そのまま無かったことにされそうだったから僕からもう一度口付けてやった。
それからも待っているだけじゃ笹川は何もしてこないから、僕は開き直ることにして今ではかなり積極的に笹川への行動を起こしている。
笹川から積極的に行動を起こしてくれることと言えば、手を繋ぐことだけ。たまに抱き締められたりもするけど、それはほんとに稀なことでキスなんてもっと稀だ。
だからいつもキスは僕からする。おねだりもする。ああこの語源が嫌だ。おねだりだよおねだり。なんだよおねだりって。
そのキスだって笹川は唇を軽く触れ合わせるだけだから、初めてのディープキスもその後のディープキスも全て僕からアクションを起こしたわけで。
それこそ手取り足取りだ。「先生が教えてあげる」って女教師よろしく、僕が色々積極的にならざるを得ない。
そんな僕に笹川は「極限積極的なのだな・・・!」と真っ赤になりながら、まるで僕が百戦錬磨みたいに言うことがまた納得いかない。僕だってそんな経験があるわけでもないのに。むしろ全てにおいて笹川が初めてなのに、なんで僕だけ『そういうこと』に達者な奴みたいに言われなきゃならないのさ。
あの笹川と比べたらそりゃ僕の方が知識は豊富だろうけど。・・・ってなんだこの見栄は。
だけどいくら開き直ったとは言え、そんな僕でも出来ないこともある。所謂嫉妬だ。
いや嫉妬もするにはするんだけど、どうしてもそれを笹川に向けることが出来ない。普通の恋人同士なら「あの娘とどういう関係なの」とかいう会話があっても良さそうなものだけど、僕にはどうしてもその台詞を口に出すことが出来なかった。
だってそんな台詞を僕が言うなんて、絶対にあってはならないことだ。そんな見苦しい女みたいな台詞は僕のプライドが許さない。
またプライドだよ。だけどこの高すぎるプライドは、本人だってどうしようもないんだ。だから僕はその手の会話は一切しない。
笹川はあんな性格だから来るもの拒まず去るもの追わずで、いつだって能天気に生きていて、嫉妬だってするのかしないのか分かったものじゃない。
そんな笹川相手に僕があんな台詞を吐こうものなら、まるで僕だけが笹川を好きみたいで、それが惨めたらしくて嫌なのもある。

・・・・誰かあの男に恋愛観についてレクチャーしてやってよ・・・。









      
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