文章2

□ラブストーリーは突然に 3
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そろそろ梅雨に入ろうかと言う六月。下級生に凄い男が居るとの噂が俺の耳にも入った。
昨年といい今年といい、毎年この時期にはこう言う噂が出てくるものなのだろうか。
だが凄い男とあれば俺は黙ってはおれない。
事実だろうがデマだろうが一見の価値はあると言うものだ。
ある日の朝、パンツ一丁で猛ダッシュしてくるその噂の男を見かけた。
この俺が静止したのにも関わらずその男は俺を引きずったまま駆けていくではないか。
なるほどこいつは中々いいスジをしているのかも知れん。
この沢田綱吉と言う男は。


沢田は本当に凄い男だった。
普段は大人しくクラスの連中にも駄目男扱いされているようだが、俺にはこいつの凄さが解る。
雲雀の時も凄い男だと思ったが、沢田綱吉に関して言えば、どこかオーラのある男だと俺は感じたのだ。

「いい加減ボクシング部に入れ沢田!お前はこの俺が認めた男だぞ!!」
「お、おはようございますお兄さん・・・。その、入部はちょっと・・・・」
鞄を抱えてコソコソと登校する沢田を見付けては毎日勧誘するのだが、どうにもうまくいかない。
雲雀といい沢田といい、どうしてこうも毎回上手くいかんのだろうか。どうして二人ともこんなにもわからずやなのだ・・・!!
初めて沢田と拳を交わした瞬間、俺には直感に訴えるものがあったと言うのに。
「お前なら大丈夫だ沢田!!俺が保証してやる!!!」
沢田の肩に両手を置いて俺の思いの丈を籠めて熱く語っているのだと言うのに、
「すみません・・・。その話はまた今度・・・!」
そう言って今日も逃げられてしまった。




「だから言ったじゃない。君の勧誘は鬱陶しいだけだって」
「むぅ・・・!何故だ!!俺がこんなにも熱心に誘っておるのだと言うのに!!」
「それが暑苦しいんじゃないの」
「この俺の心意気が解らんとは、お前もまだまだだぞヒバリ!!」
「一生理解出来なくて結構だよ」
屋上で例の如く雲雀と昼飯を食いながら、俺のボクシングへの熱い意気込みを拳を握り締めて語っていたらまたあっさりと切り捨てられてしまった。
もうこいつのこう言うところには慣れたものだ。俺はふぅと小さく溜息を吐いて、雲雀の肩をぽんと叩いた。
「お前のその性格には俺も慣れたもんだからな。今更何を言われても気にせんが」
「気にしろよ」
尚も悪態をつく雲雀の肩を宥めるようにぽんぽんと軽く叩いてやると、いきなり拳が飛んできて顎を思い切り下から殴られた。
体勢を立て直して「やるか!」と声を掛けたのに、雲雀は心底呆れたように、そして嫌そうに眉を歪ませて再びその場へ腰を降ろしている。
これ以上やり合う気はないらしい。
そう言えば最近手合わせをしておらんな。
だがこいつとはこの一年でかなり良い関係を築けたと思っている。
もう拳を交わして語り合う必要もないくらいに、俺達は互いに深く知り合えたと思っているのは俺だけだろうか。
大人しくなった雲雀の隣に座って、雲雀の顔を盗み見る。
雲雀は何をするわけでもなく空を見上げて、六月には珍しい爽やかな風を受けていた。

「君を見てると夏を連想する」
突然雲雀が口を開く。
俺こそ何をするわけでも考えるわけでもなく雲雀の顔を見ていたから、突然の言葉を全て聞き取ることが出来ず、脳に伝わったのは夏と言う単語だけだった。
「夏?夏がどうした?」
「夏って言うか、太陽・・・なのかな」
だから何が夏で太陽なのだ?
「なんか太陽と海って感じがする」
「なにがだ?雲雀は今年は海に行きたいのか?」
どうにも理解が出来なくて俺なりに話の流れを考えてみる。
俺の台詞を聞いた雲雀が無表情でこちらを振り返った。

「君は太陽が似合うと思う」
無表情で振り返ったかと思うと、予想に反して俺の言葉への返事などではなく、微かに笑ってこう言っただけだった。

「・・・・・!!」
な、なんだ今の表情は・・・!雲雀のあんな顔なぞ俺は初めて見たぞ・・・!!
呆れた笑いか悪巧みをするような笑いを見たことは何度もあったが、こんな顔は見たことがない。
邪まな感情を抱かず純粋に笑った顔とでも言うのだろうか。
そんなに明るい笑顔ではなかったが、微かに頬の筋肉を緩めて柔らかい表情をした雲雀に、らしくもなく動悸が早くなっていく。
なんなのだ、この動悸は。
跳ねるほどではないがぴくぴくと脈が疼くこのじんわりした動悸に、俺はどうしていいのかわからずただ戸惑うばかりだ。
だけど雲雀の顔から目が離せない。
一瞬であの表情は元の無表情に戻ってしまったが、それでもどうしてか目が離せなかった。





    
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