文章2

□ラブストーリーは突然に 2
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あの1月の雪の降る日に俺はお前に助けられた。
死なせてしまった子犬にどうしようもない感情が溢れてきて、俺はずっとあの公園から動けずにいたんだ。
やっとの決意で立ち上がって振り返ったらそこにはお前の姿があって、いつもより多弁に、だけどいつもと変わらない冷静さで、お前は俺を励ましてくれた。
それが俺には嬉しかった。お前との距離がもっと縮まったような気がした。
あの後、長時間雪の中に居たせいで見事に風邪を引き熱を出してしまったが、俺の気分がだいぶ楽だったのはきっとお前があの時俺を元気付けてくれたおかげだろう。
それを言うと、お前はそんなつもりで言ったのではないとムッとするが、それでも俺には大きな言葉だったんだ。




冬になってから俺達の昼休みの時間を共有する場所は、校舎の最上階の隅にある美術準備室だった。
「いい加減ボクシング部に入れヒバリ!!」
「やかましい」
いつものように準備室の扉を開けると同時に叫ぶ俺に、雲雀はいつもの鋭い視線を寄越してくる。
毎日の日課となっている会話を終えた後、俺は雲雀の前の席に腰掛けて弁当を取り出した。
「ねぇキミさ。いい加減僕を勧誘するのやめてくれない」
「む。俺は諦めるのは嫌いだ!」
「諦めるとかじゃなくってね。君の場合はただ馬鹿なだけだろ」
「馬鹿ではない!ボクシング馬鹿だ!!」
「ほんとウザイよキミ」
眉間に皺を寄せて疲れたような顔をして雲雀が溜息を吐く。
そんな雲雀にも慣れたもので、俺は気にせず飯を口に放り込んだ。
雲雀の今日の昼飯はサンドイッチ一つだけのようだ。
少し多めに入れてもらっている玉子焼きを弁当の蓋に乗せて差し出してやる。
それを指でつまんで雲雀は口に運ぶ。
まあこれもいつもの日課だ。

机の上に座っている雲雀を見上げてみる。俺は椅子に座っているからもちろん雲雀より低い場所にいるのだが、そうではなくこいつの身体が大きくなったような気がした。
「ヒバリ、お前大きくなったな」
「なにが」
「いや、背が伸びただろう?なんだか縦に長くなったような気がするのだ」
「そりゃ身長くらい伸びるだろ。君だってでかくなってるじゃない」
「いや、それはそうなんだがな・・・・」
それだけではないような気がするんだがな。なんて言うか、こうすらっとしたと言うか・・・。
「何が言いたいのキミ」
「うむ。手足も伸びて大人っぽくなったのだなお前。出会った頃は可愛らしい感じだったのに」
「可愛らしいってなんだよ」
「あの頃のお前は女の子みたいだった・・・・ぶっっ!!」
「殺されたい?」
雲雀にとってこの言葉は禁句のようだ。俺は思いっきり顔面を殴られてしまった。
そんなに気にすることなのか?
出会った頃の雲雀を改めて思い出してみると、確かにこいつはだいぶ男らしくなった。
顔立ちが整っているのに変わりはないのだが。
そう言えば俺達ももうすぐ二年生になるのだな。

「今年の一年は骨のある奴が来るだろうか」
「知らないよ。てか君、また勧誘するつもり?」
「当然だろう!!やっと我がボクシング部も形になってきたのだ!今年は更に部員数を増やして強化せねばならん!そして全国大会へ出るのだ!!」
拳を握り締めて俺が力説していると言うのに、雲雀はあくびをして眠いなどとほざいている。
まったくこの自由男めが。今年はもっとお前にボクシングの素晴らしさについて語りつくしてやる。
「やめといた方がいいよ。キミの薀蓄は鬱陶しいだけだ。それじゃ部員が増えるどころか逃げられるんじゃない」
「なんだと!!あ、こらっヒバリ!そのまま寝る奴があるか!!」
俺の怒りも不満も全く無視して、雲雀はそのまま窓枠に凭れ掛かって寝てしまった。
窓からは早春の柔らかい日差しが差し込んでいて、雲雀の顔をうっすらと照らしている。
雲雀の寝顔なんぞこの数ヶ月で何度も見たものだが、何故だか今日はその姿が神秘的に見えた。
寝顔だけ見たらまだ大人しそうに見えるもんなんだがな。
目を開けた瞬間凶暴になるのはどうしたものなのか。







    
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