文章1

□山の唄声 一
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中学の校門を潜ったところで、了平はふと思い出した。
「おお、そうだヒバリ。今日は何時に委員会とやらは終わるのだ?」
「五時半くらいじゃない。なに、急に」
「そうか。なら一緒に帰らんか?ちょっとお前に話したいことがあってな・・・」
「へぇ、珍しいね。別に構わないけど、面倒くさいことはお断りだから」
「む。大丈夫だ!すぐ終わる!」
「ならいいけど」
「なになに、お兄ちゃん!なんで私には言ってくれないの〜?」
了平と恭弥のやりとりを聞いていた京子が口を尖らせて言うと、了平ははぐらかす様に笑って恭弥の肩をぐいと抱き寄せる。
「まぁそう言うな!男同士の秘密の話と言うものもあるのだ!!」
「なによそれ〜!」
「痛いよ馬鹿力。気安く触んないで」
自分の肩を組みながら大声で妹に話す了平を殴り飛ばして、恭弥は校舎へと足を進めて行った。
これも毎朝の風景だ。





授業が終わって各々の委員会や部活も終わり、朝約束した通り了平は恭弥を待っていた。
肩を並べて夕焼けの通学路を歩いて行く。
「なに。話って」
元々は話があるからと言うので一緒に帰っているのだ。
中々本題に入らない了平に苛々して恭弥は了平に問いかけた。
「・・・うむ。実はだな・・・。その・・・」
「なに。さっさと言いなよ。鬱陶しいよ」
「む、その・・・・」
「いいからなに」
痺れを切らして段々と苛々が増してくる恭弥に了平は焦り、やっとその口を開く。
「・・・、うぅ・・・極限照れるのだが、俺はどうやら好きな女が出来たらしい」
「・・・・は?」
「だから、好きな女が出来たのだ!俺は今、恋をしているのだ!!」
了平が拳を握り締めて恭弥に向かって叫んだ。恭弥は何の話だと云わんばかりの顔をしている。
「・・・は、なに。話ってそれ?」
「そうだ。ま、まあ言うなれば恋愛相談というやつだ!!」
真っ赤な顔で少し俯いている了平が目に入る。恭弥は早くなる動悸を必死で抑えようとしていた。
「・・・ばかじゃないの。そんなくだらない事の為に話があるなんて言ったの?」
「仕方なかろう!俺だって恋なんぞ初めてだからどうして良いのかわからんのだ!・・・お前以外に相談できる相手もおらんしな・・」
「そんな相談されても僕は迷惑だよ。自分でなんとかすれば良いでしょ」
「う・・・。やっぱそうなるのか・・・」
呆れて溜息をつく恭弥に、了平はうな垂れてしゅんとしてしまった。

「まさか了平が恋をするなんてね。滑稽すぎて笑えるよ」
「俺が一番驚いておるわ。まあなんだ。俺も男だったんだなと言うことだ」
「意味わかんないよ。話ってそれだけ?それだけなら僕は用があるから失礼するよ」
言いながら脇道へと反れて行く恭弥に慌てて了平がその腕を引っ張った。
「待て!こんな時間から何処に行くのだヒバリ!まだ帰らんと言うのか?」
「離してくれる」
「離さん!お前に何かあったらどうするのだ!何処に行くのか教えろ!!」
こうなると了平は中々頑固なことを知っている。恭弥は諦めて肩の力を抜いた。
「・・・・学校に忘れ物したから取りに戻るだけだよ」
「そうなのか?よし、では俺も付いて行って・・・」
「いらない。一人で行くから先に帰れ」
鋭く睨まれながら強い言葉で否定されて了平が呆気に取られている。
その隙に、恭弥は了平の掌を引き剥がして早足で学校へと戻って行った。



   
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