LONG

□甘く蕩ける果実が如く。
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 事務所に入ると、ふわり、香る甘い匂い。今日は何かな、なんてテーブルを覗く。



「ぅわあっ、〔ガラクトース〕の夏季限定マンゴータルトっ!しかもホールだ!!」



 箱を開けた途端に更なる香りが広がって、鼻腔をくすぐってくれる。オレンジがかった黄色の身がたっぷりと乗っているそれは、あまりに魅力的だ。今すぐ齧り付いてしまいたい、なんて欲求に駆られるも、そろそろと買ってきただろう張本人を見遣る。ネウロはPCにかかりっきりで、情報収集に勤しんでいるらしい。
 本当に、どうしてしまったのだろう。ネウロはここのところ、何故か私におやつを与えてくる。それも有名所ばかり。昨日は〔桜工房〕のガトーショコラだった。一昨日は〔夢時雨〕の苺大福で、その前は〔シンパニア〕のビターチョコ詰め合わせ。今日は最近巷で噂のマンゴータルトだし・・・一体何があったというのだろう。嬉しいけど、すごく嬉しいけど、怖い。見返りに何を要求してくるのかと身構えたものだけど、驚いたことにその素振りも予兆も見られなかった。だから今となっては、普通にありがたく受け入れてる。だって、だってさ・・・美味しいんだもん。だからもう寄り道してる時間すら惜しくって、買い歩きもしないで事務所に直行してる。



「ネウロ、ネウロ」

「なんだベンジョコオロギ」

「それ止めってってば。・・・頂きます!」



 ひらひらと面倒そうに振られた手を合図に、ナイフを入れる。さっくりとした台に果汁が溢れる果肉は、見ているだけで涎が垂れそうだ。きちんと八等分した内の一切れを皿に移して、あかねちゃん特製アイスティーをコップに注ぐ。カランと氷のぶつかる音がなんとも涼しげで、耳に心地よい。至福のひとときだ。
 しかし、何でまたこんな事。私としては嬉しいの一言に尽きるけど、ネウロには何のメリットもない。あ、私が寄り道しない分、早く事務所に着く事?でもその為にこんな手間を掛けるとも思えない。もぐもぐもぐ、咀嚼する度に溢れる果汁には、意味もなく「太陽の卵!」と叫びたくなる。本当に意味ないけど。
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