GIFT

□竹見朋子さま
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まあ、アレだな。
貧乳と口では言うが、それなりに柔らかい感触はあるわけで、それが両腕に押し付けられていると思うと、その、な。
ホラ、我が輩も、一応は男なワケだ。
魔界中の謎を食い尽くした。
分からんか?
そうか。
この至福の時を他人と共有できんとは、全く残念だ。
いや、本当だぞ。
何?顔が嘘臭い?
まあ、嘘なのだが。
それはそうだろう。
二人のヤコに、両側からしがみつかれるなんて至福、誰にも分けてやらん。

ことの起こりは、我が輩のちょっとした親切心だった。
ヤコが、どうも我が輩の事を好きなような気がして仕方がない。
あの可愛い目で、そっとPCに没頭する(フリをしてフライデーでヤコを眺めたおしている)我が輩を見つめていたり、一緒に歩いている時、袖に掴まりたそうに手を伸ばしては引っ込めて(その手を掴んでしまいたい衝動は我慢しているのだが)、そんな素振りを見せるのに、何故か告白をしてこない。
何?我が輩がヤコをどう思っているかだと?
そんなの、大好きに決まっ…ゲフンゲフン。
いや、その、憎からず思ってはいるぞ。
ヤコは、なかなか我が輩の期待に応えて頑張っているからな。
小さな手で小さな体で、懸命に我が輩に追いつこうとしている姿は、好ましくないわけがない。

だから我が輩、考えたのだ。
これは、何か褒美をやらねばならんと。
そこで思いついたのが、我が輩に告白させてやろうという事だ。
もう一歩を踏み出せないヤコに、我が輩に告白するチャンスを与えてやる。
これ以上の褒美があるだろうか。
いやない!

「ヤコ、これを飲め」
「へ?また何かの実k…んがぐぼっ…ごくん」
「飲んだか?」
「の、飲んじゃったじゃん!これ何?何飲ませたの?」
「ああ、なに。自分の普段隠しているもう一人の自分が現れる薬だ」
「は?何そ…あ…あ…ネ、ネウゥ…」
我が輩の目の前でヤコの体が淡い光に包まれる。
そして、それはヤコの体から抜け出して、もう一人のヤコになった。

「わ、私が、もう一人…!」
「おお、成功だな」
我が輩が喜んでいると、後から現れたヤコが、急に我が輩の腕にしがみついてきた。
ギョッとして、それを見つめる元のヤコ。
けれど、我が輩にしがみつくヤコは、それに構わず我が輩を見上げ、甘えた声で言った。
「ネウロ…好き…」
「ヤコ…」
「や、やめてぇっ!」
我が輩がメロッとなるのと、元のヤコが頭を抱えるのが同時だった。
「つまり、貴様はデレヤコで」
と、我が輩は自分にしがみつくヤコを指差し、次に元のヤコを指差し命名した。
「そっちはツンヤコだ」
「ネウロが名前つけてくれたーv」
可愛く喜ぶデレヤコに対し、ツンヤコはぶんぶんと首を横に振る。
「ありえないから!その光景、ありえないから!」
我が輩は、それにカチンとくる。
おもむろに、デレヤコに顔を近づけ、ツンヤコにも聞こえるように囁く。
「ヤコ、我が輩が好きか」
「うん…私、ネウロが好きだよ」
「そうか」
「お父さんの事件解決してくれて、ずっと一緒に居てくれて、口では何て言ってても、危ない時は助けてくれて…」
デレヤコが、そう言いかけた時。
「やめて!言わないで!」
ツンヤコが、我が輩の逆の腕にしがみついてきた。
「どうしたのだ」
我が輩が覗き込むと、ツンヤコは、真っ赤になって、涙目で叫んだ。
「人に言われるくらいなら、自分で言う!
私、ネウロが好き!」
「ヤコ…」
「大事な事なんだから、ちゃんと自分で言うから!そんなのの言う事、聞かないで!」
「…ならば、言ってみろ」
ヤコは真っ直ぐな瞳を我が輩に向ける。
「アンタが私に虐待するのは嫌だけど、後々まで残る傷をつけられた事はない。
普段、どんだけ貶めても、一番大事な所は評価して掬い上げてくれる。
ずっと、私を見て、守ってくれてる。
それに気付いてから、私…私…ネウロが好き!」
「ヤコ!」
ようやく言ってくれた。
その幸福感で胸がいっぱいになった時。
我が輩は、反対側のヤコに腕を引っ張られるのを感じた。
「ん?」
「ネウロォ…私も、ヤコなんだよ?ちゃんと、ヤコなんだよ?」
「ああ、分かっているとも」
そう。この薬は、普段隠れている人格が現れる薬。
デレヤコも、ヤコなのだ。
つまり。
「ヤコは我が輩の居ないところでは、いつも我が輩を大好きだと思っているわけだろう」
「うん!」
「うわー!言うなぁっ!」
素直なデレヤコと、照れ屋で素直ではないツンヤコ。
まあ、ツンヤコの方が普段のヤコだから、つい構いたくなるが、我が輩の見ていないところでは、こんなデレヤコが存在していたのかと思うと、なんだかくすぐったい。
「ねえ、ネウロ。素直な私、好き?」
「ちょっ…ちょっと!」
「そうだな、悪くない」
「ネウロッ!」
「何だ」
「そ、その…」
ツンヤコは、モジモジと言い辛そうに言葉を濁す。
「ねー、ネウロ、私の事、好きって言って」
「ふむ、どうしようかな」
「そ、そんな…私だって…私だって…」
二人は、それぞれ我が輩の腕を抱え込んでこちらを見上げてくる。
そろそろ、潮時か。
我が輩は少しだけ魔力を開放し、薬の魔力に干渉した。
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