SHORT

□素直になりましょう。
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 普段よりも早く事務所に来たヤコは、怪しい程に落ち着きがなかった。そわそわそわそわと居心地悪そうに視線を泳がし、我が輩と視線が交われば何やら訳の解らぬ事をモゴモゴと呟きながら速攻で目を逸らす。失礼な。全くもって失礼な。
 アカネがいれてやった紅茶も取り落としそうになるし、見ていて危なっかしい。そもそもして、この順応力の高いミジンコが落ち着きないのだ。相当珍しい事に違いない。いっそ、中身の詰まって無さそうな脳みそにでも刺激を与えてみるか――そんな事を考えていた矢先だった。



「あ、う、ぁ・・・」

「む?どうしたヤコ、アカムシのよう・・・」

「べ、別にアンタにあげたくて作ったんじゃないんだから――――ッ!!」



 目の前で真っ赤な顔をしたヤコは、理解し難い叫びと共に至近距離から箱を投げ付けてきた。反射的に受け取ってしまうと、ヤコは既に事務所を飛び出していた後。コンクリートに反響して奇声が聞こえてくる。派手な衝突音はもしかすれば転んだか。
 ・・・何なのだ一体?
 横を見遣れば動揺している秘書がいて、疑問符だらけの思念が伝わってきた。となればこの箱に関してアカネは無関係なのだろう、ますます意味が解らない。



「どういうことだ?」

[プレゼント、みたいですけど・・・]

「悪意も謎もないが」

[あったらビックリですよ]

「ますます分からんな」



 掌に乗る程度の箱を摘み、持ち上げて振ってみる。カサカサとする音は紙のソレ。くん、香る匂いは仄に甘い。
 シュルシュルと結ばれたリボンを解くと、あの少女にしては多少意外な、可愛らしい模様が現れる。先程よりも強くなった香りに箱を開ければ、不格好な焼き菓子が収まっていた。



「何だコレは」

[クッキーですよ!]

「見れば分かる。そうではなく、何故喰えんモノを寄越すのか、と言いたいのだ」

[それは・・・何とも言えませんけど・・・]



 一枚を摘み上げ、ぱき、と割る。フライデーが興味深そうに寄ってくるのを払い、半分を口に放り込む。視界の隅で、アカネが驚いたように固まるのが見えた。己でも、何故喰おうと思ったのか不思議だが。
 ヤコが作ったと言うクッキー。もそりもそりとした舌触りは不快、味も感じられなければ美味いかどうかも分からない。



[いかが・・・ですか?ネウロ様]

「下等生物の食い物など理解できんな。――だが、」

[?]

「“アレが作った”というのは、悪くない」
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