時を操る男
□第一章 −発動−
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その日の午後。
「コレが最後ですよ、軍曹さん。」
乾いた洗濯物…夏美の寝巻きをケロロに手渡し、タママがそう言った。
ケロロはそれを黙って受け取る。
「隊長殿。」
その間、ケロロは感動で胸が一杯になっていた。
溢れそうになる涙を必至にこらえ、夏美の寝巻きを指定された場所へそっと横たえた。
ケロロの脳内で、全米が感動の涙を流している。
感極まって、ついにケロロの頬にも涙が伝った。
あぁ、どれだけこの時を待ちわびただろう。故郷で自分の帰りを何十年も待っているあの子の元へ、やっと帰れる時のような感動と興奮。
そして、その子に、他に男ができていないかという不安。
「…ちゃんと、待ってくれているかなぁ…ギャン。」
「軍曹さん、是非ボクにもギャン作りをお手伝いさせてくださ…」
「隊長殿!」
先ほどしっかり呼んだのに全然気付いてもらえなかったドロロが、意を決してタママのセリフを遮った。
普段影が薄く相手の事を考えすぎで全く自己主張できていない彼にとっては、一大決心だ。
だがどうやら相手が悪かったようで、チクチクと刺さる視線(恐らく裏)が痛い。
それでもめげずにドロロは次のせりふを言うために口を開く。が。
「あれ、ドロロいたんでありますか。いつからそこに?」
「いや、あの、ずっと居たんだけど…」
隊長の言葉に硬直寸前のドロロ。
先ほどの腹いせにと、タママが動きを止めたドロロにトドメを刺す。
「全然気がつかなかったですぅ。ま、いつもの事ですけど。」
「そ、そんなぁ…」
膝を抱えて暗いオーラを放ちはじめたドロロに背を向け、タママは満面の笑みでケロロに振り向く。
どうやら初戦の相手はドロロより一枚も二枚も上手のようだった。
「軍曹さん、そんな事より早くギャンを作りまっしょい! ですぅ。」
「おお、そうでありました。行くでありますよ、タママ二等!」
「はいですぅ!」
軍曹ルームの方向へと歩き出した大好きな緑の背中を追って、タママも歩き出した。
だがそこでちょっと気になって、ドロロがうずくまっているであろう中庭に振り返る。
だがそこに、青い先輩の影はなく。
「…あれ、いつのまに…」
そう呟いて、まぁいいかとケロロに追いつくべくタママは駆けて行った。
その次の日も、そのまた次の日も、夏美は部活の助っ人へ、冬樹はオカルト発表会へ、そしてケロロはタママと家事をこなしつつ、ギャンを一日一個完成させていくのだった。
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