ノントルマの軌跡
□そのいちっ!
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「軍曹、オレ、眠いんだけど。」
「えー、せっかくタママも呼んだのにぃ。」
缶ビールのフタをプシュッっと開けて、軍曹が言った。
「軍曹の部屋でやればいいじゃん。」
「今我が輩の部屋はジオン軍に侵略されてるのであります。」
「よーするにガンプラで散らかってるって事だろ?片付けろよ…」
隣の部屋に布団を敷きながら、呟く。
そのままごろりと寝転がり、ぼーっと天井を見つめた。
暫くして、モアちゃんとは違う、女の子の声が聞こえてきた。
タママが来たんだろう。
タママ。自称タママ二等兵。こっちも絶対偽名。
オレの身近には偽名が多い。
軍曹と結構仲がよく、モアちゃんとも仲が良い。裏表の無い、お菓子好きの子だ。
ちょっと狙ってるのは、ここだけの話。
タママは黒髪で、前髪が後ろ髪と同化している。
髪の長さは肩までって所だろうか。初心者マークの、色を反転させたヘアピンで、前髪を留めている。
さっきは睡魔に負けて「軍曹の部屋でやれば」って言っちゃったけど、声を聞くとやっぱり出て行きたくなってしまう。
見事睡魔に打ち勝って、のそのそと動き出す。
「あ、フッキー、お邪魔してるですぅ♪」
「あ、うん、こんばんは、タママ。」
ほっぺがちょっと熱い。
軍曹がニヤついてこちらを見ている。
「タママ二等〜、冬樹殿は徹夜の仕事で眠いそうであります。」
「あ、そうなんです「いやいやいやっだっ大丈夫っ。眠くなんか無いよ。」
慌てて両手を振る。
「そうですかぁ?ならいいですぅ。あ、そうだ。」
タママがバックをごそごそと探る。あ、あった。と呟いて、白い紙袋を取り出した。
「クッキー焼いたんですぅ。皆でどうですかぁ?」
「おー、さすがタママ二等、気が利くじゃーん。」
「おいしそうですね〜。タママさんってお料理は全然ですけど、お菓子作りは上手いですよね。」
「余計なお世話ですぅ。」
白いお皿に、袋の中のクッキーを盛った。可愛らしい形のクッキーが、こんがりとした良い香りを部屋中に充満させる。
一つ摘まんで、口の中に放り込んだ。
うん、やっぱりおいしい。
「フッキーはお仕事終わったんですかぁ?」
「うん、まぁね。」
もう一つ摘まんで、齧る。
今度は抹茶のクッキーだ。
「冬樹殿はもともと仕事の数が少ないでありますからなぁ〜。」
「余計なお世話だ。」
そんな会話を、モアちゃんは微笑みながら見守っていた。
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