□狂い人壊れ人愛し人5
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「…君が解ろうとしていないからだろう?!考えてみてくれたまえ。まず旅に誘った。まぁこれは友人でも誘うが二人旅だ。しかも静かな離れをとった。二人でゆっくり…楽しみたかったからだ。しかも僕は…浴衣の君を押し倒して、脱がせて、僕のものにしたかった…。
これでもまだ解らないかい?まぁこれが男女であるならもっと解り易かったかもしれないが…」
京極堂はそこまで語って一息ついた。私は私で今の京極堂の言葉が頭をぐるぐると回っていた。そして考える―――。
―――私は解ってしまった―――
「…だから消えてしまいたいなんて言わないでくれないか。君は僕がいつでもこちら側に連れ戻すよ。必ず。放っておくなんて絶対にしない。…だから…」
と言って、そっと私の顔の前の手を外して今度は優しく触れるだけの口付けをした。それから弱々しい声で
「君が…君の事が好きなんだよ…関口君…」
「解ってくれよ……」
と言い乍ら優しく私の頬を撫でたのだった。私はそんな京極堂を間の当たりにして酷く動揺してしまった。そしてそんな京極堂の痛い程真摯な態度に私は
「…解った。京極堂解ったよ…」
と答え、切なげな目をして私の頬を撫でている京極堂の手に私の手を重ねポンポン叩く。――とその手をいきなり掴まれ私は再び驚いた。見上げると京極堂の顔が迫って来て
「…好きだ関口君。僕のものになってくれ…」
と言う。私は又も混乱しかけた頭で暫く考えた末男同士どうなるものでもないと腹をくくり
「…その…これからも君と友人でいられるだろうか…?」
と問うた。京極堂はクスリと笑って片方の眉を吊り上げ
「君と僕は一体何年の付き合いだと思っているんだね。君は又いつもの様に僕の家に寝に来たり、雑談しに来れば良いのさ。…そうだろう?!」
私は京極堂の言葉に妙に納得してそう言われてみればそうかそんなものだと思えた。だから私は
「…そうか。そうだな。それなら君のものになっても…その……良い…かな…」
と答えてしまって私は又赤面する。語尾もあやふやになってしまっていたがそれでも京極堂は耳聡くそれを聞きつけて嬉しそうな表情をした。でもすまなさそうに
「…関口君…すまない…有難う」
と言った。私はそれを聞いて少し可笑しくなってしまった。今日の京極堂は素直過ぎる。まるで一生分の素直さを今、この時分に使い果たしてしまう勢いだ。そう思うと思わず笑ってしまった。
 

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