□狂い人壊れ人愛し人4
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京極堂の理解不能な行動はそれだけに止まらず更にその先へと進もうとしていた。堪らず私は声を上げる。
「っ……っ…京…極っ!」
やっとそれだけ声になった。頭がくらくらして来て人間の舌は、唇は、確かにこんなにも柔らかなものだった、だとか、京極堂は普段酷く冷たい奴なのに、舌も口の中も意外と温かい、だの、凡そ要らない事ばかりに思考が飛ぶ。そうして合わさる唇と執拗なまでに絡んで来る舌に、翻弄され続け段々と苦しくなる呼吸に気が遠くなりそうだった。其処で漸く京極堂は唇を離し、余韻の様に私の唇に付いた唾液を舐め取りニヤリと笑う。
「何だい関口君?」
何かを言い返してやりたいとは思うのだが、呼吸が乱れている今の私の口からはゼェゼェという無様な呼吸音しか聞こえて来ない。京極堂はそんな私を見て明らかに楽しんでいる様だった。
「僕に何か言いたい事が有るのだろう?!聞くだけならば聞いてあげるよ」
―――…確信犯である―――腹が立った。腹は立ったが私の悲しい現状は、未だ自らの呼吸は殆んど治まっていないのだと証明する音を発するのみで、私が今、喋る事も侭ならない事を良い事に京極堂は知らん顔で宣う。
「…何も言わないのなら続けるよ」
そう云うなり今度は首筋から鎖骨へと京極堂の唇は私の躰を徐徐に下り始めた。下りてきた唇に合わせて手が指が器用に私の肌をゆるりと伝い、今着たばかりの浴衣を脱がせてゆく。その手際の良さには脱帽だが披露する相手が些か間違っている様に思われた。勿論実際違う筈なのだが何がどう違っているのか、混乱している今の私には解らなかった。只、このままではいけないと思ったのだ。
「おい!京極堂好い加減に……んぁっ」
狭い室内に私の淫靡な喘ぎ声は妙に響いた。今の声は本当に私の声だろうか。信じられない位淫らに私の耳には届いた。咄嗟に自分の口を塞いだ。きっと今の私は今迄に無い位赤面している事だろう。窘める筈が藪蛇だった。京極堂は厭らしく―――少なくとも私にはそう見えた―――笑む。
「いい加減に何だって?!」
私はもう穴が有れば埋まってしまいたかった。京極堂は未だニヤニヤ笑っている。私は両手で顔を隠した。消えてしまえる訳ではないが顔を見られたくなかった。
「…何故僕にこんな事をするんだ?…君の意図がまるで解らない。いつも解らないけれど今は全くだ…もう僕は消えてしまいたい…僕が彼岸へ旅立ってしまってももう連れ戻さないでくれ…放っておいてくれ……」
そう言い終わると私は自分でも気付かぬ内に涙を流していた。それを見た京極堂は酷く悲しげな顔をした。何故だろう。
「…関口君。本当に僕の意図が解らないのかい?…本当に?」
そんな筈は無いとばかりに続ける。何故か必死だった。
 

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