□狂い人壊れ人愛し人3
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「そろそろ上がるよ。君も上せない程度にして上がり給えよ」
そう云って京極堂は入る時同様さっさと上がってしまった。私も余り浸かっていると直ぐに上せてしまう質なのでその後直ぐに上がった。
部屋に戻ると京極堂は浴衣に着替えていた。私も勿論同じ浴衣を着ている筈なのに京極堂とは何かが違う…様な気がする。すると又しても案の定の声。
「君は良い歳をして浴衣一つまともに着られないのかい?…どれ」
そう云うと京極堂は私の浴衣の帯を取り直し始める。
「え…いやでも後は寝るだけじゃないか。良いよ別に直さなくても」
私は何故か慌てる。
「良かぁないよ君。こんな変てこな着方じゃあ脱がせる気も失せるというものさ」
「…………は?!」
私の聞き間違いだろうか?
脱がせる…?
…誰の?!
…何を…?!
私の思考は其処で停止してしまった。
「…ぬ…脱がせるって一体何をだい?!」
「何ってそりゃあ浴衣さ」
「じゃあ、その、…ぬ…脱がせるって、一体誰をだい?」
「誰ってそりゃあ君さ、関口君」
「な、…ななな…何を君は…巫山戯て…」
私はしどろもどろになってしまった。おたおたしてしまって何を云っているのか何を云われているのか解らない。赤面する。そんな私を京極堂が凝視している。
「…君は本当に良い怯え方をする。実に僕の加虐心を煽ってくれる。まるで虐めて下さいと云わんばかりだ。成程、榎さんの云い分も解らんではないな」
随分と失礼且つ勝手な云い草である。
「そんな…勝手な…」
私は何とかそれだけ口にする。
「はい。出来たよ」
そう云って京極堂は私を眺め回す。私は更に赤面してしまう。そんな私の様子に京極堂は不思議と満足そうにして、
「何だ、結構様になっているよ関口君」
そんな事を云い乍ら私の手を取り伸ばしたり、肩を掴んでは回転させたりして頻りに私を眺めた…というより鑑賞した。と、云った方がより近いかも知れない。
そうして私の耳元で告げられた科白。
「…それに、以外とそそられる」
そんな言葉の直後、京極堂はいきなり私の浴衣の前を合わせた隙間から手を差し入れて来た。その手と指の動きが妙に卑猥に感じた私は驚いて身を引いた。然し、腕を掴まれ素早く腕が回された腰は逆に引き寄せられてしまう。この痩せぎすの男の何処にそんな力が有るのか…私は一瞬にして蒼くなる。極度の緊張と恐怖で体が固まってしまって、…自分で動く事さえ侭ならなくなってしまった。その間にも動けない私を、京極堂はいとも容易く布団の上に押し倒してしまう。
尚も何が起きているのか解らず混乱していると、京極堂の顔が鼻同士で触れられる程近づいて来て、今度は唇を深く吸われギョッとした。そうして次には生暖かく柔らかな舌が侵入して来る感覚。私は更に緊張の度合いを増した。…頭が混乱する。
何故自分と京極堂がこんな事になっているのか。そもそも、京極堂が私にそんな欲求を持っていたという事自体が理解不能だった。
 

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