銀色旋律


□瞳を開けて
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 最後にみた君の姿は 優しく慈しみに満ちた瞳が閉じていく瞬間

 気がつけば空気のように傍らにいた君 視線を合わせれば不敵な笑みを返す君

 君さえいれば何も恐くなどなかった 君さえいればこの醜くも美しい世界で前だけをみて生きて行けた

 幸せな刻は一つの銃弾に奪われ 僕は君を永遠に喪った

 小さな小さなその鉛は確実に君の急所を打ち抜き 段々と君の命が消えていくのを僕に食い止める術はなく

 君は最後まで僕の安否だけを気にかけ 僕はその美しい瞳が徐々に濁っていくのをただみているしかできなかった

 お願いだから そんな綺麗な微笑みをうかべないで

 お願いだから その綺麗な瞳を閉じないで

 熱を喪った血塗れの君の掌を頬にあて その冷たい身体を抱き締めて温もりを与え続けるしか愚かな僕に術はなく

 それでもかえらぬ温もりに しばらくしてこれは夢なのだと何処からか声がした

 これは悪夢

 これは現実ではない

 繰り返される声に 僕は安堵の溜め息をつく

 それなら君は喪われていない

 それなら君の瞳はまだ僕を映してくれる

 それならまだ僕の名を口にしてくれる

 たとえこれが目を覚ますことがない夢だったとしても 僕が目を閉じてしまえば 君を喪うこの世界から目を背けることができる

 だからお願いだ 僕が瞳を閉じているうちに 君のその美しい瞳を開けてくれ




 最後に見た君の顔は 紅く綺麗な瞳を大きく見開き 呆然とした表情が段々と歪められていく瞬間

 気がつけばいつの間にか傍にいた君 視線が合えば優しく微笑んでくれた君

 君が僕の名を呼んでくれるから いつも前を向いて歩いて行けた

 君が隣りで幸せそうに笑ってくれたから この色のない世界が光輝いてみえた

 幸せだった刻は一つの銃弾に引き裂かれ もう二度とは訪れないけど 僕は二度と君の隣りを歩けないけれど

 君に向かい放たれた小さな鉛に気付いたのは本当に偶然で 間近に迫ったそれを受け止めたのは必然で

 こんな結末を迎えた物語だったけど 僕は幸せだったんだ

 だからそんな顔をしないでくれ そんな絶望に押し潰されそうな声をあげないでくれ

 お願いだから そんな悲しい声で名前を呼ばないでくれ

 お願いだから 泣かないでくれ

 もう自分には時間がないから 最後には君の優しい声が聞きたい

 小さな小さなその鉛は 確実に急所を貫いたようで

 燃えるように熱かった身体が 今は寒い

 残された時間はほんの短い刻しかなく 段々と意識がなくなっていくのがわかる

 なあ いつも恥ずかしくって言えなかったけれど なあ 本当はいつも思っていたんだ

 君を愛しているよ もう口にして言う力もないけれど

 だから僕が目を閉じてしまっても 君は目を開けて 前だけをみて生きてくれ


 
††††††††††††††

 以前、拍手に置いていたものです。
 最初は「Close my eye's Open your eye's」というタイトルだったんですが、このサイトを創るにあたり、銀魂は一応江戸が舞台なんだから、原作ベースのヤツに英文は使用しないようにしようと考え、改題しました。
 いえ、べつに、英語が苦手だからって訳では…ないはずです。

2007.12.14再録

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