望月旋律
□そして天使は恋に堕ちる
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一対の白い羽をはばたかせ、銀時は常春の世界である狭間の空を飛び回っていた。
日本と呼ばれる世界で命を落し、魂の選別により狭間にあるアカデミーに放り込まれた銀時は、それまでの行いから悪魔になるだろうと思っていたのに、何故か白い羽を贈られ天使として働く事となった。そのうえ、アカデミーの教師までやらされている。
しかし、この教師役のおかげで、大切に思える者に会えたのだから、馬鹿にしたものではない。と思うが、真面目にやるかと言われれば、それはまた別の問題なのだが。。
アカデミーを卒業した死神が勤める場所として、真選組というのがある。銀時はいつも仕事をサボっては、真選組の仕事場にお邪魔をして休暇をしている。
今日も真選組の仕事場である建物へ無断で入ると、建物内は緊急時以外は飛行禁止なため羽をたたみ、他の所へは視線を向ける事なく目的地目指して一直線に歩く。
周りの死神達も慣れたもので、天使である銀時がここにいても別段驚くでもなく、中にはニコヤカに挨拶をしてくる者までいる。
建物内の奥まった場所に着くと、扉の前で立ち止まり、深呼吸を一回。
「十四郎〜…って、あれ?」
大切な死神の名を呼びながら扉を開けて中へ飛び込むが、部屋のなかには誰もいない。
今日は、銀時が天使に生まれ変わった記念日だ。それをお祝いしてくれると言って、ここにくるようにと約束を交わしていたはずなのだが、誰もいないとは思っていなかった銀時は、楽しみにしていた心が萎んでしまった。
時間は指定していなかったが、仕事中毒の気がある十四郎ならば、この時間には必ずいるとばかり思っていたのに、あてが外れたようだ。
「ちぇっ」
ふて腐れた銀時は、机の前に置かれたソファーに勢いよく飛び込むと、クッションを枕に横になる。さすが、真選組で二番目に偉いとなると、調度品もかなり良い素材を使っているのだろう、銀時は体を優しく受け止める柔らかなソファーが気持ち良く、一眠りしてしまおうと決めた。
ここで待っていれば必ず帰ってくるはずだ。
そう思って、銀時は目を閉じた。
銀時が目を閉じてから数時間後。
廊下の方から話し声が聞こえるが、熟睡している銀時が目を覚ます気配はない。
やがて、部下に指示を出したこの部屋の主が髪をかきあげながら入ってきても反応はなく、そのため、十四郎も部屋には誰もいないと思い込み、銀時が横になっている横長のソファーの向かいに腰をおろした。
「はぁ〜…」
天神に呼び出されて、今までお茶に付き合わされていた十四郎は、疲れた表情を隠す事なく背もたれに寄りかかり、上に向けた顔を手で覆ってため息をつくと、休んでいる場合ではないとばかりに姿勢を戻す。
「っ!?」
目の前に穏やかな寝顔の銀時がいることに気付き、一瞬、体が硬直したが、すぐに片手で目元を覆って深いため息をつく。
「まったく、テメェはまだアカデミーにいる時間だろが」
そう呟く十四郎の顔は、呆れた口調とは裏腹にかなり優しい。
一人がけのソファーから立ち上がると、静かに向かいまで歩み寄り、銀時の顔を覗き込むようにして絨毯の上に腰をおろす。
「まったく、しかたのねぇ奴だな、テメェは」
苦笑しながら銀時の寝顔をみつめていたが、静かに顔を近づけると、そっと唇で唇を触れ顔を真っ赤に染めて呟く。
「おめでとう…生まれ変わる事を承諾してくれてありがとうな…」
小さな声で囁くようにそう告げると、十四郎は絨毯に腰をおろしたまま銀時が寝るソファーによりかかって目を閉じた。
十四郎の静かな寝息が聞こえてくると、そっと銀時が瞼をあげて目の前の十四郎を優しい眼差しでみつめ、嬉しそうに囁き返す。
十四郎が部屋に戻ってきた時にはすでに目を覚ましていたが、彼を驚かせようと寝たふりをしていたのに、逆に銀時が驚かせられてしまった。
「こっちこそ、出会ってくれてありがとうな」
自分とは正反対なサラサラな髪を梳く表情は穏やかで、銀時の心は幸せでいっぱいだった。
「起きたら、どんな顔すっかな」
十四郎が目を覚ました時の顔を想像しながら、銀時は十四郎の体を軽々と持ち上げ、二人で横になるには狭すぎるソファーの上に、抱き込むようにして再び横になる。
抱き上げた時に寄っていた眉間のシワも、銀時が抱きしめた時になくなり、そんな小さな事が嬉しい。
「まったく、何度、俺を恋に落とせば気が済むんだか…起きたら、また言ってくれよな」
「…うぅん…」
まるで返事をするような十四郎の寝言に、銀時が小さくふきだす。
「おやすみ、十四郎」
そう囁くと、十四郎を抱きしめたまま、銀時は再び眠りについた。
部屋は静寂につつまれ、穏やかな陽射しだけが二人を見守っていた。
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「銀時誕生祭」第九弾。
「そして天使は戀に堕ちる」天使銀時×死神土方です。
前半、世界感だけでまったく銀時も土方さんもでてこなかったのですが、実は前半にも、銀土要素は隠れているんです…!?
あえて、誰と誰とは言いませんが。
ともかく、とうとう本番は明日です!
2007.10.09.