望月旋律

□銀狼物語
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 汚れを落とした後にあらわれた見事な毛並みから、その色をとって銀と名付けられた獣は、ある一軒家の中庭に面する縁側で、秋の陽射しを浴びながら丸まり、昔の事を夢にみていた。


 それは、まだ銀の養い親が生きていて、仲間達と一緒にいた頃に、怪我をした銀を優しく介抱して、持っていた苺大福を差し出してくれた少年の夢。



 奇しくも、その見事な銀色の毛並みから異端として仲間から虐められ斜面を落とされた日は、彼の数回目の誕生日。

 その日、痛みに意識を取り戻した銀が見たのは、心配そうに覗き込んでくる少年は、仲間内でも整った顔立ちが多い事で有名な銀の集落でも、見たことのないほど秀麗な顔立ちをしていた。

 はじめは警戒していたが、朝食を食べたきりの銀のお腹の音が辺りに響くと、少年は一瞬、目を見張ると、次の瞬間、笑い出した。

 その笑顔があまりにも綺麗で、自分が笑われているにもかかわらず見惚れていると、傍らに置いてあった木箱から、笹の葉に包まれたモノを取り出し、貰い物だがと言いながら紐をとくと、中からは白く丸いモノがでてきた。

 はじめてみるモノをじっと見つめていると、少年は苦笑して、いくつかある白くて丸いモノを手に取ると、一口かじる。

「ほら、毒は入ってねぇから食え?」

 少年の言葉でに何度か瞬きをした銀は、両手に一つづつ手にとると、片方に噛り付く。

「……っ!?」

 中には黒く甘いモノと赤い苺が包まれており、あまりの美味さに銀は夢中で頬張った。

「ああ、慌てて食うと危ねぇぞ」

 しかし、少年の忠告も虚しく、銀が咽に詰まらせると、苦笑いしながらも竹筒の水筒を差し出して、背中を摩ってくれる。

「…恐くないのか?」

 優しくしてくれる少年に、銀は思わず尋ねた。

 常々、銀は養い親から、人間は自分達人狼を恐がって、危害を与えてくるから近付かないようにといい聞かされてきた。しかし、目の前の少年は、恐がるどころか、自分に優しくしてくれる。

 銀にはそれが不思議だった。

「はぁあ?何で、恐がんなくっちゃいけねぇんだよ」

「だ、だって、人間は、銀達人狼を恐がってハクガイするって、先生が…」

「…別に、天人がきた世の中で、今更、半獣を見たって、驚くわけねぇだろ」

「あまんど?」

 初めて聞く単語に首を捻る銀に、少年が苦笑する。

「空からやってきた奴らだ」

「ソラ、から?」

 その時の世間を知らない銀にはわからない事だったが、目の前の少年が、自分を恐れていないと言うことはわかった。


 その後、何故、傾斜を転がり落ちてきたのかや、今日が己の誕生日で、養い親の先生がご馳走を作ってくれる等、そんな他愛のない事を話し。やがて、あまりに遅い銀を心配した先生が捜しに来てくれるまで、銀は少年と一緒にいた。

 微かに聞こえる己を呼ぶ声に銀が反応すると、少年は迎えが来たことに気付いたのだろう、立ち上がり、地面に座っていたことで汚れた着物をはたきながら、木箱の中から軟膏の入った入れ物と綺麗な小袋を取り出すと、開けていた蓋を閉めて再び背負った。

「銀は傷が多そうだから、これをやるよ」

「えっ!?」

「迎えが来たみてぇだし、銀達は、俺達人間をあまり好きそうじゃなさそうだからな」

 いきなりの事に驚いている銀の頭を優しくなでると、綺麗な小袋に軟膏入れたモノを銀に渡して少年は去っていってしまった。
 
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