望月旋律
□かぶき町異譚
2ページ/5ページ
沖田が神楽を睨んでいると、こちらに気付いたとたんに、楽しそうに土方と話していた顔が強張り険しい目つきでこちらを睨み返してくる。
新八と会話をしていた土方は、突然立ち止まった少女の方をむき、その先に何があるか気付いて、その表情を強張らせた。
神楽にとって沖田が天敵であるように、土方にとって、自分に何かとちょっかいをかけてくる銀時が天敵と言ってよいだろう。
銀時の捻くれた愛情表現は、恋愛事には疎い上に天然気味な土方には、嫌がらせとしかとれない。
緊迫した雰囲気のなか、同時に飛び掛かった神楽と沖田に一瞬気を取られた土方は、その一瞬で間合いを取られ、ニヤリとした銀時の表情を認めた時は遅く、荷物のように肩に担がれてしまった。
「と、トシさんっ!?」
新八の焦った声に振り返った神楽と沖田がみたのは、銀時の肩に担がれ掠われる土方の姿。
「と、トシちゃんっ!?」
沖田との試合を放棄して愛犬のもとへと駆け寄ると、柱に括り付けていた散歩紐を新八と共にほどき、土方を追うように命じる。
「こんな街中で誘拐たぁ、流石、旦那でぃ」
焦る二人を尻目に、今日の試合はもう無理と悟った沖田は、そばにあった甘味屋の長椅子に腰を下ろして諦観することに決めたのか、暢気にあくびをして見送った。