望月旋律

□漆黒の夜空 銀の月
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 天人が日本へやってきてから設立された、特別武装警察・真選組。

 廃刀令をだされたこの世の中で、幕府から刀を持つことを許されている数少ない組織だ。



 警察庁長官である松平を直属の上司と仰ぐ真選組は、他の帯刀を許されている組織と違い、実力があるのならば、流派も身分も問わないとあり、腕に自信のある者達が門を叩いていく。しかし、あまりの激務に辞める者が後を絶たないので、万年人手不足でもある。

 真選組の屯所は、天皇と将軍を護るため、京都と江戸の二カ所に設置され、それぞれ、京都真選組、江戸真選組と呼び分けられている。



 京都真選組は芹沢局長、新見、山南両副長を中心に構成されている女性主体の組織なのに対し、江戸真選組は、近藤局長、坂田、土方両副長を中心とした男性主体の組織となっている。

 京都真選組には男性隊士は数名いるが、江戸真選組にいる女性隊士は、二番隊隊長の神楽のみだ。


 江戸真選組には、鬼がいる。

 黒き鬼、土方十四郎。

 白き夜叉、坂田銀時。



 今日は、その白夜叉である銀時の誕生祝いの日だ。

 いや、確かに銀時の誕生祝いのための宴会だったはずなのだが、すでにそんな名目は厠に流され、ただの飲み会と化している。

 今、攘夷浪士達による襲撃があったら、ひとたまりもないに違いない。

 新八は、屍累々となっている大広間を呆然とした目つきで眺め、そんな事を考えていた。

 辛うじて、宴会初っ端に祝いの言葉を贈り、食事だけして下がった夜勤の隊士と未成年の隊士と見習い隊士達は素面なのが救いだろう。中には、未成年なのに酒を浴びるように呑む沖田のような隊士もいるが。

 周りを見渡せば、主賓の銀時は、柱相手に恋愛相談を展開しているし、局長の近藤にいたっては、全裸で寝っ転がっている。年頃の娘がいるのだから、せめて下だけでも隠して欲しいものだ。

 他の者にいたっては、沖田は一人黙々と日本酒を飲み続けているし、神楽は、酒類には目もくれず、ひたすら食事を続けている。

 そんな中、もう一人の副長である土方は、一度も顔を出していない。土方付きの市村は、他の見習い隊士達と共に端っこの方で談話しているのにも関わらず。

 新八は、その事を不思議に思っていたが、入隊当初から何かと世話になっている、直属上司の銀時と違い、入隊前から京都へ長期出張で不在だった土方は、数日前に挨拶を交わしただけの面識しかない。

 副長付きの市村や玉置といった者達とは、年も近いことからよく話すが、たまに見かける土方は、何かしら不機嫌な顔をしているか、誰かを叱っているかしか印象がない。



 新八が〆のお茶漬けを食べていると、いきなり大広間の襖が勢いよく開かれた。

「おいっ!今何時だと思ってやがるっ!ガキどもは、さっさと寝ねぇかっ!?」

 そう言いながら入って来たのは、宴会が始まってから初めて顔を出した土方だった。

「は、はいっ!」

 見習い隊士達は、土方の登場に慌てて談笑を止めると、自分の周りを片付け始めた。

「えぇ〜…まだ、食べ足りないアル!」

 すでに十人前は胃に納めているはずの神楽は、お櫃を抱えた状態で抗議している。

「まだ食べるつもりか…」

 呆れた事を隠さない口調でため息と共に、神楽の頭を撫でている。

「ちっ、うぜぇ…土方死ね」

「うるせぇ、どさくさ紛れに、ムカつくこと言ってんじゃねぇよっ!」

 一升瓶を振り回す沖田の暴言に、一々律義に応えている。

 しばらく沖田と口論をしていたが、柱時計から10時を知らせる鐘の音が聞こえてくると、ため息をついて他の未成年者達を追い出しにかかった。
 
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