望月旋律

□恋はある日突然に・番外編
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 十月もいくらか過ぎたある日。


 仕事の依頼がくることもなく、いつものようにダラけていた銀時は、従業員達の反乱にあい、定春の散歩を終えるまで帰ってくるなと家を追い出された。

 途中、定春に引きずられたりはしたものの、順調に定春の散歩ルートを進んでいた銀時は、しかし、あてが外れたようにため息をついた。

「ちぇっ…土方も休みだっていうから、もしかしたら会えるかもと思ってたのによぉ」

 いつもなら、土方の愛犬を神楽が連れて定春と一緒に散歩しているはずなのに、今日は珍しく休暇を土方がとれたようで、神楽に今日の散歩はしなくていいと言われたと言っていた。

 それならば、土方みずから愛犬の散歩へ行っているに違いない。あわよくば、一緒に犬の散歩が出来ないかと狙っていたが、まったく会う事等なく。

 それならば、家の近所を定春の散歩と称してぶらつけば、と思ったが。よくよく考えてみれば、銀時は彼女の住んでいる家がどこにあるのか、まったく知らなかった。

 犬を屯所で飼っていないことや、神楽に鍵を渡していたことから、土方は屯所に住んでいないことはわかっていたが、場所まではわからない。

 何度か場所を神楽に尋ねた事はあるが、一度も教えてもらった事はなかった。



 もともと、銀時は土方に惹かれていたが、土方を男と思っていたので、その気持ちを封印していた。しかし、あの日、見合いのために着飾った彼女が、愛犬に見せた笑顔に魅入り、銀時は恋に落ちたのだ。

 その後、ちょっとしたアクシデントはあったものの、土方の手を取り責任は取ると言ったにも関わらず、銀時はしばらく、土方から無視され続けていた。

 ここ最近は、土方とも普通に話せるようになり、小さなチャンスも逃さないようにしていたが、すでに日が暮れてしまった今日は、土方に会うのは無理だろう。

 銀時はため息をついて、定春のリードを引っ張って、家路へとついた。



 定春を連れて自宅の階段を登っていた銀時だったが、玄関先でいきなり定春が動かなくなってしまった。

 押しても引きずってもびくともしない超大型犬に、銀時は動かすことを諦めて、神楽を呼ぶことにした。あの怪力娘ならば、定春も軽々と動かせるに違いない。

 定春を動かすことを諦めた銀時が玄関のドアを開けようとした瞬間、ドアの方が勝手に開く。


 パンッ!パパンッ!


 鋭い音が耳にとどき、咄嗟に身構えた銀時だったが、それまで何をしても動かなかった定春に、背中を鼻面で押され、銀時は押し出されるように前に足を踏み出した。
 
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