銀色旋律
□子供の時間
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その日、俺は、人で溢れるかぶき町を全力で走っていた。
何故そんなに急いでいるかと言えば、その質問の答は至って簡単で。
俺が贔屓にしている和菓子屋が毎月朔日限定で出している、数量限定の創作和菓子を毎月楽しみにしていたのに、今日に限って寝坊しちまったからだ。
毎月限定で出している創作和菓子は、自他共に認める甘味王である俺には物足りない甘さなんだが、それを差っ引いてもお釣りがくるほど美味い。
明日は愛しのマイハニー十四郎が非番だから、今日の仕事を終えたら泊まりに来てくれると、前々から約束している。
だからこそ、その創作和菓子を手に入れたかった。
その創作和菓子なら、俺とは違い甘い物が苦手な十四郎でも食べられるはずだ。そうしたら、十四郎は照れ臭そうに笑ってくれるに違いない。
やっぱり、好きな人には自分の好きなモノを気に入ってもらいたいし、好きな人の笑顔を引き出すのが、自分の好きなモノだったら、幸せじゃないか。
それに、もしかしたら。
―――十四郎、あーん
―――あーん…
十四郎の口に指で持った和菓子を差し出すと、そっと口を開けて俺の指ごと含む十四郎。
―――どうだ?
―――美味いな
―――だろ!
ドキドキしながらお伺いをたてれば、ニッコリと笑って答える十四郎に、見ているこちらまで嬉しくなってくる。
―――ああ…銀時…
―――え?
―――あーん…
照れ臭そうに笑って差し出される和菓子。
―――十四郎…!
勿論、俺がそれを断る事なんかあるはずがない。
そんでもって、二人のムードは文字通り甘くなって、その後は…ムフフフ。
明日は休みなんだから、朝までしっぽりとできるに違いない。
そんな事を考えながら走っていたからだろうか。
キキィィィイイッ。
ドン。
大きな音がしたかと思うと、突然の衝撃と痛みを感じた俺の体が、宙を舞いどこかに叩き付けられる。
「キャァァァアアッ!」
「人がはねられたぞっ!」
薄れ逝く意識の中、そんな叫び声が聞こえた気がする。
誰かが、車にはねられたらしい。
物騒だな、オイ。
そう呟いて、俺は意識を失った。