銀色旋律
□恋愛遊戯
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「やぁ〜まぁ〜ざぁ〜きぃぃぃっ!?」
機嫌の悪さがまるわかりな程に凶悪な声が、真選組の屯所に響き渡る。
その声に慌てて副長室へと走る山崎の姿を、隊士達は同情を込めたまなざしを送るが、当の本人はそれどころではない。
早く土方のもとへ行かなければ、ただでさえ悪い機嫌がますます悪くなる。そうなると、山崎に降りかかる火の粉はますます増えて、小さな火傷どころではすまなくなる、大火傷だ。
「お、お呼びですか、副…グボッ」
「テメェーなんだこの書類っ!?」
襖を開けて入室した途端に顔面にぶつかってきた紙の束で、ただでさえ低い鼻が余計に低くなった気がする。
「(これって、労災利くのかな……)」
最新の空気清浄器でさえも追いつかないほど煙草の煙で澱んだ空気と、鬼の形相な副長の怒鳴り声を浴びながらそんなことを考えられる山崎は、大物なのか慣れなのか。
ただわかっていることは、この後、背中に隠し持っていたバトミントンのラケットが見つかり、ボコボコに殴り倒されるということだけだ。
屯所内ではどこまでも要領の悪い監察方筆頭であった。
ここ最近の土方の機嫌は過去最低の数値を示していた。
これほどの苛々は、幕府の馬鹿な高官共のクダラナイ命令や嘲りを受けた時や、総悟が土方の写真を貼った藁人形で丑の刻参りをしていたのを発見した時、親友で上司である近藤がストーカーをしていると判明した時でもここまで酷くなかったのに、ここ最近は苛々して仕方がない。
それと言うのも、数日前に偶然、沖田と坂田が仲良く逢引しているのを見かけたその次の日から、坂田の嫌がらせが始まったのだ。
ただの嫌がらせであれば土方も仕事柄慣れているので無視できるが、これまた巧妙なほど土方の嫌がることばかりをついてくる。そのため土方の苛々は日々募り、機嫌は最低値を示していた。
何故、あのような事を坂田は繰り返し続けるのか、土方にはわからなかった。