旋律


□月よりもなお 〜起床編〜
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 穏やかな陽射がカーテンの隙間から部屋へと差し込んでくる。その陽射に誘われて、シャナは静かに目を覚ました。

 一瞬、己がどこにいるのかわからず、目を擦りながら視線だけで辺りを見渡すが、胸の辺りに何かがのしかかっているような感じに、上半身を起こしながらそれをどけて視線をむけた。

 そこには、シャナよりも太くひき締まった腕があった。

「・・・ああ、宿か・・・」

 顔にかかる母譲りの見事な銀糸を気怠気にかきあげ、どこにいるのかを寝起きの頭で把握すると。節々が痛む身体を騙し騙し動かして、寝台の側に置いてあった椅子の背から上着を掴み肩にかけて起き上がった。

 思いっきり背伸びをして窓にかかったカーテンを開くと、眩いばかりの朝日が部屋へと差し込み、眩しそうに目を細めるシャナを優しく照らす。

「うぅ・・・」

 突然の朝日が眩しかったのか、今だ寝台の上で寝ていたゲオルグが眉を顰めて寝返りをうつのを、シャナは溜め息をつきながら見守っていた。

「まったく」

 平素であれば何かが少しでも動く気配で起きるゲオルグを知るだけに、なかなか起きようとしない寝汚さに呆れるより先に、己を信用してくれているその心に嬉しさが込み上げて来る。

 ゲオルグと共に祖国を出てからすでに十年近い年月がたっていた。

 はじめの数年はシャナの護衛であるリオンも共にいたが、亡きフェリドの願いであった女王騎士となることを叶えさせるために彼女はファレナに帰っていた。

 その際、シャナも一緒に戻ろうと懇願されたのだが、その頃はまだリムスレーアの治世は強固ではなく、救国の英雄扱いされているシャナの人気は凄まじく、妹の治世の邪魔となるモノはどんな些細なモノでも側には置いておきたくなかった。

 たとえそれが己であろうとも。

 そのことをリオンに話し、彼女をなんとか納得させるのは一苦労ではあったが、時折聞こえて来る風の噂では元気にやっているようで、今ではソレも良い思い出だ。

 水差しからグラスにそそいだ水を一口で飲み干すと、いまだ寝台の上で布団にくるまっている恋人を起こすため、空いているスペースに腰をおろしその体をそっと揺らそうと手を伸ばした。

「・・・っ!?」

 突然、伸ばした手を掴まれ布団のなかに引きずり込まれてしまった。

「ゲオルグッ!?」

「油断大敵だ」

 己を組み敷く男を睨み付けるが、敵はそんなことで怯むような可愛らしい心を持っているはずもなく。逆に目を細めて憎たらしい一言まで口にしてくる始末だ。

「目覚めていたのなら、早く起きてください」

「まあ、まあ、久し振りの柔らかな寝床だ、もう少し横になっていても罰はあたらん」

「はぁ……なら、この手はなんですか」

 妖しい動きをする手を軽く叩いて退かせると、相手は悪びれることなく苦笑して肩を竦めてみせた。

「まったく、お前は生真面目すぎる」

「誰かさんが不真面目なものですから」

「それは大変だな」

「まったくです」

 肩を竦めるシャナに小さく笑いかけると、ゲオルグはおもむろに寝台に広がる見事な銀糸を一房手に取り、そっと口付けた。

「しかしまあ、タマにはその誰かさんのように不真面目になるのも大切だと俺は思うぞ」

 おどけた口調でゲオルグがそう告げると、仕方がないとばかりに苦笑したシャナは、そっと両腕を目の前の太い首にまわしてその唇に軽く口付け、妖艶な笑みをうかべた。

「本当に仕方がない人ですね」

「そこが良いんだろ?」

「さあ?どうでしょう」

 クスクスと笑いあいながらどちらからとなく何度も軽い口付けをかわすと、やがて、その口付けは段々と深くなっていき、部屋は爽やかな朝日とは対照的に、甘い甘い雰囲気に包まれていった。



 それは、祖国からの使者が女王兄であるシャナ宛てに、帰国を促す手紙を携えてやってくる前の、穏やかで甘く何気ない一日の始まりであった。



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 この二人の場合、うちでは珍しく片思いがないなので、かなりラブラブで甘ったるいです。

 ちなみに、お祭りへ贈った時には、王子の名前がデフォルトのファルーシュでした。


2007.9.11

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