旋律


□禁じられた遊び
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 それは、エルリック兄弟が報告書を提出しに、東方司令部へと帰ってきたある春の日のことだった。

 兄のエドワードは後見人であるロイに本来の目的である報告書の提出にむかい、弟のアルフォンスは東方司令部の受付で呼び止められ、何か手続きをしているため遅れてやってくるようだった。



 報告書の提出も終了し、それに付随した質問も終わったロイの執務室で、部屋の主と本日のゲストが狸と狐の化かし合いのように楽しく会話していた。

 廊下から金属の擦れる音と叩き付ける音が近付いてきたかと思うと、いきなり部屋の扉が威勢よく開かれて、鎧が部屋へと飛び込んできた。

 兄を反面教師にしているのか、いつも礼儀正しいアルフォンスにしては珍しいその威勢に、ロイとエドワードはソファから少し腰を浮かしてアルフォンスを見つめた。

「やったよ兄さんっ!あたったんだっ!!」

「ア、アル?」

「ほら見てよっ!?」

 嬉しそうな声で手に持っていた小包をエドワードに見せるように前に差し出す。

 それはアルフォンスの手には少々小さめではあるが、至って普通な箱だ。

「これがどうしたんだ、アル」

「懸賞で当たったんだよ」

 首を傾げる兄の言葉に喜々として答えると、大切そうにテーブルの上に置き、中から丸いキャンディーが詰まった瓶を丁寧に取り出した。

 開け放たれたままの扉の外では、指令室の者達が何事かと集まってきて覗きこんでいる。

「懸賞ぉ?」

 ロイとエドワードは異口同音で呟くと、楽しそうに取り出した瓶をそっとテーブルに置いているアルフォンスを見つめた。

「懸賞って、何でそんなもんがココに届くんだ?」

「うん、あのね。夜なんか暇だから、タマに雑誌の懸賞とかに応募するハガキを書いて出してたんだ、それにほら、僕達住所不定だから、住所は東方司令部アテで」

 弟のあまりな告白にエドワードは思わず遠い目をした後、おもむろにアルフォンスの腕を叩いた。

「早く元に戻ろうなアル」

 ある意味、かなり切実な言葉を嬉しそうにしている弟にかけた。

「?うん、頑張ろうね兄さん」

 首を傾げるアルフォンスは、兄の言葉の意味を何もわかっていないようだ。

「それで、それは何ナノかね」

「はい、何でも、一粒で背が高・・・」

「何っ!?でかした弟よっ!!?」

 集まってきた部下達をロイが下がるように手を振りながら不思議そうに尋ねると、その答えが終わらぬ内にエドワードがその懸賞品を掴んで一粒口に放り込んだ。

「あっ!?」

 突然のことにロイとアルフォンスは驚いて固まってしまった。

「あれ?なんだこれ、すぐにとけちまったぞ・・・うっ・・・?」

「鋼の?」

「に、兄さん?」

 突然口許を押さえて蹲るエドワードに、硬直からとけた二人が駆け寄ると、二人が見守る前で信じられないことが起こった。

「・・・ふぅ・・・にゃんとかおしゃまったじぇ・・・」

 突然襲ってきた吐き気が治まったエドワードが立ち上がると、ロイとアルフォンスが呆然とその姿を見つめている。

「?どーしたんだ?・・・うん?」

 呆然とする二人にエドワードは不思議そうに尋ねると、ふと違和感に首を傾げた。

 何だか舌が微妙に上手く回らない上に声がおかしい。それに、何だか周りの景色もおかしいような気がする。

 嫌な予感にエドワードが恐る恐る己の手を覗きこめば、目に映るのは、大きくなったどころか、普段よりも更に小さくなってしまった手が映る。

「にゃ、にゃんしゃこれわーっ!?」

 そこには、大きな服を纏った、舌足らずな幼い声でさけぶ四、五才程の幼児がいた。



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