望月旋律

□かぶき町異譚
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 中秋の名月が過ぎ、秋の装いが深まってゆく。そんななか、かぶき町を行く人々の格好も段々と厚着になり、それに比例して、町の街路樹達は葉を散らしていく。

 人々が厚着になっていくなか、揃いの黒い制服に身を包んだ二人が、気怠げに町を見廻っている。


 三色団子を食べながら歩いているのが、真選組一番隊隊長、沖田総悟。

 棒付きキャンディをくわえ、怠そうに歩いているのが、真選組副長、坂田銀時。


 二人は横に並んで歩いているくせに、会話のために一口も口を開く事はなく、三時のオヤツを食べるためのみ口を動かし、ただ黙々と歩き食いをしながら見廻りをしていた。


 しばらくすると、ふと銀時の足が止まり、ある一点をじっと見つめている。

 銀時が立ち止まった事に気付かなかった沖田は、少しだけ先に進んだところで、隣にいたはずの銀時の姿がないことに気付き振り返れば、大江戸マートの入口を熱心に見つめる上司がいる。

「何やってるんでぃ、旦那」

 沖田の問いに答える様子はなく、その事を気にすることもなく、沖田も彼が見つめている店舗の入口に視線を向ければ、何故、銀時がそんなに熱心に見ているのか理解した。


 視線の先には、見覚えのありすぎる白い大型犬が、入口の横の柱に繋がれている。

 その犬の飼い主の一人に銀時が御執心なのは、真選組では衆知の事実だ。

 あの犬がいると言うことは、沖田の天敵である人物がいる可能性も高い。沖田が面白くなさそうに眉をしかめた時、入口の自動ドアが開き、中から犬の飼い主達が出て来た。


 黒い洋装に白い着流し姿、装いだけを見れば男だが、実は男装の麗人の土方十四郎。それが犬の飼い主であり、銀時御執心の人物だ。その土方が経営する万事屋の従業員である神楽と志村新八の姿もある。

 神楽とは因縁があり、沖田にとっての天敵だ。
 
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