望月旋律

□漆黒の夜空 銀の月
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 前略、姉上様

 道場復興のため、僕が真選組へ入隊して数ヶ月がたちましたが、お元気でお過ごしですか。

 はじめは、やる事成す事失敗ばかりだった僕でしたが、亡き父上や姉上に鍛えられたおかげで、入隊したばかりの僕が、副長付きになることができました。


 これからも幹部の方々に認めてもらうように、精進したいと


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 新八がそこまで筆を進めた時、廊下から彼を呼ぶ声が聞こえ、筆を置いて振り返った。

「あ、はい。どうぞ」

「失礼します」

 入ってきたのは、新八と同じ副長付きである市村だった。新八よりも年若い彼だが、二年程早く入隊した先輩だ。

「宴会の時間なので呼びにきたんですが、大丈夫ですか?」

「えっ、もうそんな時間ですかっ!」

 今日はこれから、新八の上司である副長の誕生日を祝って、宴会が催される。

 入隊半年など、真選組内では超新人と言っていいだろう。

 そのため、準備要員は別にいるとはいえ、新八も宴会の準備を手伝うつもりだったのだが、どうやら、部屋の片付けや手紙を書くことに夢中になって、準備の手伝いに行くことを忘れていたようだ。

「あっちゃぁ…」

 手をついてうなだれる新八の耳に、小さく笑う声が聞こえ、新八は顔をあげた。

「大丈夫ですよ、皆さん気にしてませんから」

「えっ、でも…」

「副長付きはどちらも、他の内勤の方々に比べキツイですから、宴会の準備要員からは外されるのが定石なんですよ。手伝いに行こうものなら、逆に、こんな時ぐらいは休めって言われてしまいます」

「はぁ…」

 そう言って苦笑する市村は、入隊資格に満たなかった年齢をごまかし、その事が発覚した時も、どうしても入隊したいのだと副長相手にたんかをきった意志を認められ、副長自ら見習い隊士として取り立てられた猛者だ。

 そんな強靭な意志を持っている市村と違って、あの副長相手にそんな暴挙にでる事などできない新八は、例え彼の言う通りだったとしても、もっと時間を気にするべきだったとうなだれる。

「大丈夫です、って」

「はい…」

 先輩とはいえ、年下に慰められるのは悲しいものがある。

「それに、あの副長付きを、一ヶ月以上も続けられるなんて、凄いって、皆さん言ってましたし」

 笑いながら告げられる言葉に、ますますうなだれる。

 新八的には、自分よりも市村の方が凄い。

 長期出張から先日帰ってきたばかりの副長を思い出し、自分の直属の上司が彼でなくって良かったと胸を撫で下ろしたのは、一度ではない。

 例えマダオであろうと、あんな恐ろしい上司よりはマシだろう。

 そう新八は思うのだが、入隊してから副長付きをしている市村は、まったく違う意見のようだ。

「まっ、とにかく、夜勤の方々以外は大体集まってますから、もう行かれた方がいいかもしれませんね」

「えっ、あ、ホントだっ!」

 市村の言葉に、慌てて時計を確かめれば、宴会が始まる時刻が迫っている。

「直ぐに仕度しますっ!」

 慌てて簡単に筆等を片付け、待っていてくれた市村と共に、宴会会場である大広間へと急いだ。
 
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