望月旋律
□恋愛小説
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夏もすぎ、段々と秋も深まってきたある日。
大手出版会社のS英社に勤めている志村新八は、赤坂にある某ホテルの一室にて、銀色天然パーマの男と二人閉じ込められていた。
これでもかというほど濃くいれられたお茶と、厚く切った獅子屋の羊羹をお盆にのせ、机の前で先程から少しも動く気配のない銀時に声をかけた。
「銀さん、ちょっと休憩しましょう」
「おお、マジでか!やったぜ」
声をかけるまではまったく動かなかったくせに、休憩の一言で机から離れて、いそいそとテーブルの前までやってくる。
「それで、ちょっとは進んだんですか?」
新八の問いに、羊羹を口に含んでいた銀時は、首を横にふってみせる。
「…っんぐ。まったく」
「って、あんた、わかってんでしょうねぇ、〆切りは明後日なんですよ?明後日!」
「わぁってるって。うるせぇなぁ、テメェは俺の母ちゃんかってぇの」
「こんな天パーでマダオな子供なんて、いりませんよ」
お茶を飲みながら、吐き捨てるように新八が言う。
「天パーを馬鹿にすんなよっ」
「天パーは馬鹿にしてねぇよっ!原稿を仕上げようとしないマダオを馬鹿にしてんだよっ!」
ソファから立ち上がって抗議していた銀時は、その言葉に肩を竦めて座り直した。
「仕方がねぇだろぉ、インスピレーションが湧いてこねぇんだからよぉ、インスピがよぉ…ってか、ぶっちゃけ、男二人でホテルに閉じ込められるって、キモくね?ありえなくね?こんなんじゃ、インスピレーションのイの字も浮かんでこねぇって」
大人しく銀時の言葉を聞いていた新八だったが、俯き膝に置いていた手を震わせている。
勿論、怒りで。
「誰のせいだと思ってんですかっ!あんたの!!あんたのせいでしょうがっ!!!明後日が〆切りだってぇのに、原稿を仕上げなかったのはあんたでしょうがっ!!!!僕だってねぇ、あんたみたいなマダオと二人っきりだなんてキモイわっ!!!!!一緒にいるなら、お通ちゃんみたいに可愛い女の子がいいですよっ!!!!!!」
ドンッ!
中腰になりテーブルを力任せに叩けば、湯呑みと皿が少し浮いて、小さな音をたてて戻る。中身がほとんどなかったので、被害はない。銀時にいたっては、ちゃっかり、自分の分だけは手元に避難させていたので、まったく問題なしだ。
「まったく…やれば直ぐに書き上げちゃうくせに、何でやらないんですか…」
新八のため息まじりの問いに、銀時はただ肩を竦めるだけで、答えようとはしなかった。