望月旋律

□貴方しかミエナイ
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 授業の終わりを告げる鐘の音が鳴り、教室は一様に騒がしさを取り戻していく。

 銀時も帰る用意をしながら、悪友の桂と取り留めのない話をしている。

「銀時はどうするのだ?」

 クラス委員会に出席しなければならない桂は、銀時がいつも一緒に登下校をしている相手も、学年は違うが同じ委員会役員であると知っているため、答えはわかっているが、一応、尋ねる。

「図書室で、なんか読んで待ってんわ」

「そうか」

 ため息をついてカバンを持ち上げた桂は、居眠りをしている高杉の頭を叩き、文字通りたたき起こすと「伝えておこう」と言い残し、会議室代わりの教室へと向かった。

「おぉ〜い、しんちゃ〜ん生きてっかぁ〜?」

 桂に叩かれた時に、異様に良い音がなったので、笑いを堪えながら声をかければ、顔を上げずに手を振り返してくる。どうやら、痛みを我慢しているようだ。

「まっ、お大事に〜」

 高杉は、笑いながら去っていく銀時が消えてから、しばらくはそのままの状態でいたが、教室から人の気配がなくなると、不機嫌な表情を隠す事なく下校していくその額と鼻の頭は、赤くなっていた。




 図書室の出入口そばにある机に荷物を置き、棚から適当に取り出し、夢中にならない程度に読み始めた。これで、待ち人である十四郎が会議をしている教室は、ここ図書室の直ぐそばにあるので、終えて出てくればすぐにわかる。

 選んだ本は、四季というタイトルの写真集のようで、春の野原、夏の小川、秋の銀杏並木、冬の雪山といった風景が美しい。

 ふと、興味なさそうに眺めていた銀時のページをめくる手が止まり、視線が一カ所に集中する。

 白詰め草にクローバーの野原、アップで写るその中に、四つ葉のクローバーを見つけた。



 四つ葉のクローバー。



 銀時にとって、四つ葉のクローバーは特別だ。

 特に、誕生日である今日は、余計に。



 銀時は、いつも肌身離さず首にかけて持っている手縫いのお守り袋を、制服の上から優しい手つきでなでた。
 
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